第91話 ムルシア村でデモ販売

 翌日の午前中にデモ販売をした。ルイスとモニカは日陰で販売を担当して、デモンストレーションはウィルコが担当した。


 豚肉のハニーケチャップ炒め、ナポリタン、トマトチキングラタンを手際よく作り、村人に振る舞った。試食の前にチーズについても説明したが、美少年のウィルコにポーッとなったお嬢さん達は気にせず食べて美味しいと喜んだ。…ウィルコが何かしたんじゃないかと思ったが魔法のない世界なので疑いすぎだ。


 警戒してトマトチキングラタンを避ける大人や男性は少なくなかったがミゲルさんとサルマさんが美味しそうに食べていたのにつられて食べた人も多かった。でも買うほどでは無いと判断されたのだろう、売れたのはダッチオーブンとハチミツとケチャップとハニーケチャップのタレばかりだ。


「次に作るのはグラノーラ、今日は食べやすいように細長く作るよ」

 ウィルコが香ばしくオートミールとナッツをバターで炒った。

「ドライフルーツを刻むよ、昨日作ったのはまだ食べ頃じゃ無いから作り置きのドライフルーツね。種類は何でもOK、量も好きなだけね」

 手際よく数種類のドライフルーツを刻んで加えてハチミツと絡めながら温めてまな板に広げたら細長くカットする。

「冷ましている間にキャラメル・グラノーラ・バーも作るよ」

 こちらはハチミツと一緒に生クリームを混ぜてキャラメルにして同じように細長くカットした。

 若いお嬢さん達はバターやキャラメルの甘い香りに夢中になって牛乳由来ということも忘れて試食した。


「美味しい…」

「甘いのね!」

 グラノーラ・バーは大人にも子供にも超好意的に受け入れられて、作り方を知りたいという声が多かったので、そのままウィルコによる料理教室が開かれた。


「さっきはお鍋で作ったけどオーブンで作る方が作りやすいんだよ。薄く広げてオーブンで好みの状態まで焼いてね。ハチミツで作ったけど甘みをつけるのはなんでもいいんだ」


 メープルシロップも広めたいけど採取のタイミングは3月上旬から4月中旬。今年はジャガイモの種芋とか主食をなんとかするのに必死だったから来年だな。


 甜菜(ビート、または砂糖大根とも呼ばれる)は4月下旬に植付けして収穫は10~11月だからこれも来年だ。地球でも全世界の砂糖生産量のうち約30〜40%は甜菜だっていうし、メジャーな甘味なんだよね。

 メープルシロップと甜菜は北部が気候的に合っているけど、サトウキビは南部が栽培に向いているんだよね。

 サトウキビは夏植えと春植えがあって、夏植えは1年半、春植えは1年かけて育てて、どちらも収穫は春先。生前に旅行で4月に沖縄に行った時、刈り取ったばかりのサトウキビ畑を見たっけ。もう少し前に来られたらって思ったんだよね。



「もし乳製品に抵抗が無ければ、これもどうぞ。クリームチーズにハチミツと刻んだドライフルーツを混ぜたディップだよ」

 これも好評だったがチーズを買う人はいなかったが、さらに追加でハチミツが売れた。


 デモ販売が終わってお客さん達が帰った後、ミゲルさんたち農業組合の人たちが残ってくれた。昨日いなかった人もいる。

「大盛況だったねえ」

「ええ、ありがたいことです」

 後片付けを終えたテーブルにドライフルーツを使った試食とお茶を並べる。


「ルイスさんとモニカさんは大丈夫かい?」

 サルマさんが心配してくれる。

「どうしても旬が終わる前にドライフルーツを仕込みたくて来たんだけど暑いのは慣れないわ…」

「でもフルーツはカレンの好物だからな」

 ルイスが私の頭のてっぺんに頬擦りする。


「カレンちゃんのために無理したのかい?」

「干せば冬でも美味しく食べられるからな」

「カレンは生で食べるのも干して食べるのもジュースにしても喜んでくれるのよ」

「私は2人に無理して欲しくないよ」

「私たちが動けない分、ウィルコが頼りになるわ」

「3人はもう僕の家族だからね」


「ぐすっ」

「すんっ」

 涙もろい農業組合の人たちがウルウルしている。家族を亡くした幼女と叔父と叔母と拾った子供が寄り添って生きてます!って設定が泣かせてしまうようだ。


「昨日干したのは明日には完成だよ、今日追加で仕込むのはやめて王都に戻る?」

「北部で販売するならたくさんあったほうがいいけど、私たちの分だけなら充分だよ」

 ウィルコと2人でルイスとモニカに戻ることを提案する。


「その事なんだが…」

「農業組合の者で相談してね、ドライフルーツを組合で作ったら買ってくれるかい?」

── こっちから切り出す前に提案してくれた。


「いくら作っても熟れすぎたら終わりだ」

「作った分だけ無駄にしないで美味しく食べてもらえるなら、こんなに嬉しいことはないよ」


 ドライフルーツを作るためのネットを農業組合に販売して、ドライフルーツは涼しくなったら仕入れに再訪することになり、前金を渡して契約完了だ。


 翌日、カラカラに乾いたドライフルーツを収穫してムルシア村を出発した。農業組合の人たちが見送ってくれて、お土産に食べごろのフルーツまで持たせてくれた。

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