第223話 マルワル村の茶の木

「まあ、これを飲んでみてよ」

ウィルコが緑茶や紅茶、烏龍茶を淹れる。


「すっきりしてるな」

「どれも食事に合うし健康にも良いんだよ」

「……」

「……」

「……」


 村人たちの反応はイマイチだ。タンドリーチキンに比べると地味だし売れる気がしないのだろう。


「じゃ、じゃあミルクティーにしてみようか!」

 ウィルコ一押しのミルクティーだ。水牛のミルクで丁寧に淹れる。ちなみに砂糖は無しだ。まだ高級品だもんね。


「これは良いんじゃない?」

「…そうだな」


 絶賛にはほど遠かった。

しかしウィルコの青汁計画にお茶は欠かせない。何よりお茶は美味しいのだ。


「前金を払うし製法を教えるから作って!」


 ウィルコは直球でお願いすることにしたようだ。細かい契約について合意したので茶摘みから一緒に体験してもらった。


「ただ摘めばいいって訳じゃないんだな」

「うん、採取方法が品質を左右するから」

「買い取り価格が大きく変わってくるから丁寧に頼むぜ」

「最高級の品質なら高く買うわ」

 村人たちが真面目な顔でうなずいた。



 摘採てきさいの後すぐに加工だ。日本茶の場合、新鮮な状態で蒸して発酵を止める。次に揉捻じゅうねんと呼ばれるお茶を揉む工程だ。茶葉を均一化しつつ成分が出やすくする。揉捻じゅうねんの後は乾燥だ。


 抹茶は揉捻じゅうねん無しだ。摘採てきさいの後すぐに発酵を止めるために蒸す。蒸したらすぐに冷まして乾燥。


 烏龍茶は葉の周辺をこすり合わせて、傷をつけることによって発酵を促進させる工程がある。頃合いの発酵状態で釜で炒って酸化酵素の活性を止める。


 紅茶は摘み取った茶葉を乾燥させてから揉む。茶葉の細胞組織を破壊して酸化発酵を促す。酸化酵素が空気中の酸素に触れると活性化し、紅茶の香り、味、コクになるらしい。

 揉んで塊になった茶葉をほぐして空気に触れさせて発酵を促進させると緑色だった葉が紅茶色になって紅茶らしい芳香を漂わせるようになる。さらに乾燥させればお馴染みの紅茶だ。


 一緒に実演して挿木で茶の木を増やす方法も教えた。


「じゃあ今回作ったものを買い取るよ」

「新たに加工してもらう分の前金もだ」


「本当に前金を払ってもらって良いのか?」

「手間をかけさせるから当然の対価だ」


「今回は全部ウィルコ買い取る前提で栽培や加工の手間と買い取りの料金は別にしたけど、他の商人から引っ張りだこになったら改めて値つけするといいわ」

「品質が上がれば高く買いたい商人が増えるよ」



 勝手に生えているものを加工するだけでお金になるから受け入れてもらえたけど、まだお茶の価値をちゃんと理解してもらえたとは思えない。いつか高級品になるように広めたい。

 それに野菜不足の地域に青汁はいいよね、ウィルコの期待通り美味しく出来れば…美味しく出来るかな。

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