第209話 甘えん坊ちびルイス

「姉ちゃん、くっついて寝たい」

ちびルイスがモニカ狼のお腹辺りで寝返りをうった。


── 可愛い…。


 もともと仲良し姉弟で、一緒に昼寝して一緒につまみ食いして、いつも一緒のモニカ狼とルイス狼だけどルイスが小さいから100倍可愛い。

 しかも「くっついて寝たい」とか「抱っこ」とか甘えん坊なんだよね。おかげでウィルコと私の表情筋が全然仕事をしてくれない。



「寝ちゃった?」

「ええ、しばらく起きないと思うわ」

「可愛いねえ」

3人でちびルイスを見下ろす。


「昨日よりは良くなっているよね」

「明日はもっと良くなるね、ご飯の量も増やそうか」

「走り回るようになったら大変だけど大人に戻るまでだから」


── ああ、子犬って元気だよね。ルイスは子狼か。大変でも2〜3日くらいなら大歓迎ですよ!


 私たちが見下ろす中、ちびルイスは四つ足で宙を蹴ってうなされていた。何かを攻撃しているのか逃げているのか…。


── 夢にうなされる子犬って可愛いよね。


 起こして悪夢から救い出さずに見守った。



*******

 翌朝、ちびルイスは朝食をリバースせずに食べ終えてモニカ狼に甘えていた。


「だいぶ回復してきたんじゃない?」

「気分は悪くない?」

「だいぶいいぞ、もうすぐ大人に戻れそうだな」

 モニカ狼にペロペロされて目を細めながら大人っぽい口をきくちびルイスが生意気で可愛い。



*******

 お昼も完食したちびルイスが尻尾を振りながら部屋を徘徊する。

 見慣れた我が家のはずなんだけど小さくなると視点が変わって珍しいようだ。

 クッションを齧って中の綿を引き摺り出したり生ハムの原木に向かってジャンプしたり大忙しだ。



「お邪魔しますよ」

シモンさんが来た。


「シモンさん」

「いらっしゃいシモン」

私とウィルコで出迎えた。


「ルイスはほとんど回復したようですね」

 シモンさんが元気よく部屋を荒らすちびルイスを見る。


「そうなの、もうすぐ大人に戻れそうだってモニカが言ってたよ」

「では遠慮なく」


 シモンさんが殺虫剤のスプレーっぽいものを取り出した。ここにゴキブリはいないと伝える前にシモンさんはルイスの前に素早く移動した。


ブシュー!!

「ウォフッ!?」


 自分の口元をハンカチで押さえたシモンさんがちびルイスに向かって殺虫剤を噴射し、薬剤を思いっきり吸い込んだちびルイスがひっくり返る。


「ルイス!」

「ちょっとシモン!」

 ちびルイスに駆け寄ると、蹲っていたちびルイスが徐々に大きくなった。


「これは飲み薬を吸引タイプに変換したものです。暴れ回るクソガキ狼もイチコロです」


「イチコロって…」

ルイスを退治するつもりですか!?


「薬じゃないの?」

「薬ですよ。ほら、元通りのサイズに戻りましたよ。普通は飲み薬で回復するところですが神狼は薬を飲んでくれませんからね。テラの世界の殺虫剤を参考にしました。素早く逃げるゴキブリに対応可能な形状は暴れ回る神狼にも対応可能だとピンときて開発しましたが思った通りですね」


 眼鏡をクイっとしながら、思った通りですと満足そうなシモンさん。


「自然治癒に任せると暴れ回って大変だろうと予測してタイミングをはかっていました。体力も回復したようなので吸引させに来たんですよ。何しろ子狼の頃に私の眼鏡を13回も破壊した暴れん坊ですから」


「お、覚えていねえな…」

冷や汗をかきながら目をそらすルイス狼。


これは覚えているな…。

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