第30話 魚を食べたい!

 王都に戻り、持ち帰った鍋やケチャップを販売する日々を過ごす。


 ローズウォーターやアルガンオイルはそれなりの価格設定が必要だし、それなりの価格の贅沢品はまだ売れないのでアイテムボックスに眠らせることになった。贅沢品を楽しめるくらい豊かな社会になるよう頑張らないと。


 王都の家では自由に行動できるので結界にいることが多い。結界で何をしているのかというと…肉を焼いていた。


 その日に食べる分と大量の作り置きをアイテムボックスに保存するのだ。

 狼たちの大好物である唐揚げは頻繁に作らされた。毎日肉メニューだ…豚カツ、豚汁、豚の角煮、つくね、焼売、ハンバーグ、ミートソース、ポークジンジャー、ビーフシチュー、スペアリブ、鳥手羽大根、牛すじ煮込み、ジャーマンポテト、肉うどん、しゃぶしゃぶ、ローストビーフ、肉じゃが。連日、こんな感じだった。


 今日は牛丼を仕込んでいる。クエンカでガンホーさんに作ってもらった寸胴鍋4つ分だ。つまり1人1鍋を担当している。


 味が馴染む頃、ちょうど土鍋ご飯が炊き上がったので夕飯だ。

 丼に土鍋ご飯をよそって牛丼たっぷり。副菜にほうれん草とベーコンのソテーと明太マヨで和えたブロッコリーと肉豆腐。お味噌汁はナメコとお豆腐。

 テーブルの真ん中に紅生姜と刻みネギ、大根おろし、キムチ、温玉、チーズを並べる。


「そのままでも美味しいけどトッピングも美味しいよ。私は1/3はネギと紅生姜で1/3は温玉で1/3はおろしポン酢かな」

 子供の身体なので量を食べられないから計算して食べないとね!

── 横を見るとルイスとモニカがガツガツと食らっている。底無しの胃袋だ。


「ねえカレン、チーズはどのくらい掛けると美味しいの?」

「ウィルコが食べたいだけ…まずは一掴みだけ掛けてみて」

 1.2m離れる必要があるので丼を置いてウィルコが離れる。インターネット通販で買ったバーナーでチーズを炙り、チーズが溶けて少し焦げ目がついたくらいで止めて下がるとウィルコが丼を手に取る。

「どうぞ試してみて」

「……これ合うね!美味しい」

「もっと掛ける?」

「うん!」

 パラパラと追加したチーズを炙ってやるとルイスとモニカがチーズを山盛りかけて待機していたので、それも炙ってやる。


「寸胴鍋3つ分も余って良かったね、これは私のアイテムボックスにしまっておくから」

 狼たちに肉の管理は任せられない。狼たちもお腹いっぱいなので素直に肯く。


「そして私は肉に飽きた」

 満足そうにポテ腹をさすっていた狼たちがピシリと固まる。


「魚が食べたい」

カレンの目が座っている。マジな訴えだ。


「カレン?今日の牛丼も美味しかったよ?カレンには美味しくなかった?」

ウィルコが可愛らしく首を傾げる。

「牛丼は美味しい。でも私は肉に飽きた。魚を食べたい」

狼たちが不安そうに汗をかきながらカレンを見る。


「海に行く」

「海辺で何を広めるの?」

「仕事はいい。魚を食べたい」


 ウィルコの質問にカレンが答えるが、そのシンプルな回答にカレンのストレス度を感じた狼たちだった。

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