第111話 立候補の締め切りとチリビーン
「この世界で初めての選挙まで2か月だね」
この世界の新しい指導者を民主的に決めるための選挙を実施すると神託を下したのは春だった。
立候補の受付は8月1日から10月1日まで。投票日は12月15日で即日開票。
今は10月半ば。すでに立候補は締め切っているが、立候補者は2人のまま増えなかった。
どちらの候補者も王政時代に王族や貴族から民衆を守るための自衛組織を率いていたリーダーだ。北西部の反政府組織のリーダーだったソニアさんと南部の反政府組織のリーダーだったユセフさん。2人とも現実と理想のバランス感がよくて行動力もあり人望もあるリーダーだ。
投票所の準備と開票作業はシモンさんとウィルコでやってくれることになっている。シモンさんは指導教官みたいな立場だな。
あとランダムで一般市民を選挙管理委員に任命するとも国民に伝えてある。公正な選挙を実施する為に監視人が必要なことと、任命は投票日直前だと知らせた。この経験をもとに国民が選挙を運営できるように、いずれ人間だけで運営してもらうとも伝えている。
選挙違反は自動的に犯罪奴隷落ちだから、あまり心配はしていない。
「ただいま〜」
「おかえりウィルコ、シモンさん」
今日はシモンさんとウィルコが2人で投票所を設置する場所の確認に行ってくれていたのだ。
「どうぞ」
もう外は冷えるので暖かいコーヒーを出した。
「暖かーい」
「アメリカのダイナーからポットで出前したコーヒーだよ。チェリーパイとドーナツもあるよ」
「食べる!」
アメリカのダイナーから取り寄せた本物だから激甘だけどアメリカかぶれのウィルコは大喜びだ。今度キーライムパイやペカンナッツのパイも出前してあげよう。
「選挙の準備はどう?」
「投票所の下見は今日で終わりです。今日までの下見をもとに投票所を設置します」
「12月に入ったら一度全部を回るよ。雪が降ったら投票所を増やさないといけない場所も出てきそうだし」
「選挙管理委員の任命はランダムな抽選なので準備もありませんし、開票は神力で一気にやります。開票作業はオープンにやりますから、ちょっとした見せ物になりますよ」
特に大変なことはありませんだって。この経験をもとに人間に引き継ぐから必要なことを伝えていく方が大変そうだ。人力だと開票も大変そうだしね。
「なんだか良い匂い…」
「ルイスとモニカと一緒にウィルコが喜びそうな夕飯を仕込んでいるんだよ。シモンさんも食べていってね」
「何を作っているの?」
「チリビーンズと甘くないコーンブレッド」
「アメリカのご飯だ!」
そうチリといえばアメリカだ。
フードプロセッサーで玉ねぎとセロリとニンジンを粗いみじん切りにして炒める。牛ひき肉も入れて炒める。キドニービーンズは缶詰を使う。1缶はフードプロセッサーで粗いピュレ状にして鍋に加えて、もう1缶はそのまま鍋に入れる。トマト缶も1缶だけフードプロセッサーでピュレ状にしてもう1缶はそのまま鍋に入れる。ガーリックパウダー、チリパウダー、クミンパウダー、コリアンダーパウダー、塩と胡椒で味付けして煮込む。パクチーは嫌いだから入れない。
コーンブレッドの材料は、卵と溶かしバター、牛乳、プレーンヨーグルト、小麦粉とコーンミール、ベーキングパウダー、塩。
砂糖は少しだけ入れる。甘いコーンブレッドが一般的だけど私は食事に甘いパンは嫌なので甘くないレシピを探した。
「うわあ…!映画やドラマで観たやつだよ!嬉しい」
「あとはマカロニ・アンド・チーズを作ったよ。フライドチキンの出前も取ろうね」
「マッケンチーズ!?ホーム・アローンて映画でケビンが食べてたやつだね!嬉しいよ」
そうだっけ?そこまで覚えていないや。
ホワイトソースに削ったチェダーチーズをたっぷり溶かして茹でたマカロニに和えるだけの簡単料理で、ここまで喜んでもらえるなんて嬉しいよ。
「ご飯にしようか」
「うん!」
フライドチキンの注文をしよう。オリジナルチキン8ピースパック(4名様向け)をルイスとモニカとウィルコとシモンさんに1つずつ。自分用は期間限定のレッドホットチキンを1ピース。
「いただきまーす!」
まずはチリビーンから…うん美味しく出来た。マッケンチーズも暖かいうちに食べないとね。これも美味しい、チーズソースが熱々のうちに食べきりたい。でもレッドホットチキンも気になるな、ガブっと…うん辛くて美味しい。
「カレン、それは何?」
「レッドホットチキン、期間限定メニューを単品で注文したの。食べる?」
全員が肯いたので多めに頼んだ。
「辛くて美味しいわ!」
「もっと頼む?」
「ええ!」
そういえばモニカは辛いもの好きだったな、忘れててごめん。ルイスとウィルコとシモンさんは1ピースで充分みたい。
「美味しいよ!憧れのチリビーンもコーンブレッドも美味しいけどマッケンチーズが特に美味しい!」
焼きそばパンとコロッケサンド大好きな炭水化物ラバーなウィルコらしい感想だった。
「また作ろうね」
みんなで食べるご飯は今日も美味しい。
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