第181話 甜菜糖
「俺たちが北部や南部を回っている間、お前らはどこに行っていたんだ?」
「今回の旅の主役はウィルコよ」
「ほう?」
「僕はカレンくらいの年齢の頃にルイスに拾ってもらったんだ」
いきなり重たい身の上話でトーマスさんとパーシーさんの纏う空気が暗くなった。
「僕の生まれ育った村は甜菜糖とメープルシロップの産地でね。貴重な砂糖を産出する村だったから、いろんな貴族に狙われていたんだよ。まあ貴族たちの争いに巻き込まれて僕の両親を含むほとんどの村人が殺されてね。僕は両親に甜菜の種を持たされて逃されたんだ。たぶん生き残ったのは僕だけ」
トーマスさんとパーシーさんが早くも涙目だ。作り話でごめん…。
── トーマスさんとパーシーさんがウィルコと私を交互に見てウルウルしている。
これはあれだ、今の私くらいの年齢で故郷の村を滅ぼされて1人で彷徨うことになったウィルコの身の上話を私で脳内再生しているな。かわいそうな子供を見るような目で私を見てるし…。
「甜菜の種を隠し持って放浪していた時に傭兵だったルイスに拾われて今に至るんだ」
はしょりすぎだけどトーマスさんとパーシーさんの涙腺が限界なので問題無さそうだ。
「ちょうど今ごろが甜菜の種まきの季節だし、栽培に適した村を見つけたから売ってきたよ!収穫は10~11月ごろだから秋になるけどたくさん採れるはずだから困っている商人のみんなに利益が行き渡るんじゃないかな!」
「そ、そんな大切な種子を…」
「…ぐすっ…ウィルコくん!」
トーマスさんとパーシーさんの涙の堤防が決壊した。
「王都で甘いスイーツが流行するといいよね!僕、食べたいものがいろいろあるんだ。また試食会をやりたいなあ。ね!ルイス?モニカ?カレンは賛成だよね?」
湿度高めのトーマスさんやパーシーさんとウッキウキのウィルコとの落差が激しかった。
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