第180話 パーシーさんの心意気
王都の家にトーマスさんとパーシーさんを招待した。
「トーマスさん、おかえりなさい」
「北部はどうだった?」
「まずは先に雪解けした地域にチーズを仕入れに行った」
王政を廃止してから行政で資金の貸付が始まり、貴族の横暴により破産寸前だった商人たちに貸付金が入金された。その資金をもとにチーズの仕入れルートと卸売り先のレストランや食料品店を世話したのがトーマスさんだ。
「お前たちのおかげ無事に初回の仕入れが出来た。チーズを生産する村に顔繋ぎもできたし、次回以降の仕入れについても契約を結べた」
「卸売りはうまくいったの?」
「ああ新規の取引を申し込まれていたレストランや食料品店を紹介して、そちらとの契約も結べた。行政の貸付金も定期的に返済することになっているだろう?みんな無事に初回の返済が出来たと聞いている」
「良かったな」
「その後でトラカイ村にも行った」
トーマスさんの奥さんのエミリーさんが楽しみにしていたもんね。
「チーズの往復で疲れていてな、少し休みたかったがエミリーが許してくれなかった…」
「そ、そうなの…」
「でも無理した甲斐はあったぞ。今回の往復で商売を立て直し出来るやつも出てきたし、俺も儲けた。何よりエミリーの機嫌が良い」
「それはなによりだな!」
「俺たちが北部を行ったり来たりしている間にパーシーも成果を上げたぞ」
「パーシーさん日焼けしたね!」
「僕はもともと日焼けしやすいんだよ」
パーシーさんは実家の農作業で鍛えられていて、見た目ちょっとワイルドだけど中身は優しくて働き者だ。パーシーさんの奥さんは王都の人で押しかけ女房なんだって。
「僕は皆さんに教えていただいたとおり、南部で放置されているサトウキビを探しながら行商したんだ。似た植物を見つけるたびに刈り取って齧ってみるつもりだったんだけど最初から当たりだったよ!」
ウィルコが仕込んでウィルコがここを回ると良さそうって指示したもんね。パーシーさんが無駄足を踏まずに済んでよかった。
「あとは黒糖のサンプルを持って近くの村に飛び込んで、少し刈り取って絞って煮詰めてみせたら話は早かったよ。後日改めて別な商人を連れてくるからって話すところまでで買い付けはしていないんだ。今回は出来るだけ沢山のサトウキビを見つけて話をつけるところまでやりたいと思って」
「少しずつでも持ち帰れば、パーシーさんの利益になるのに…」
「そうよ、ちゃんと利益を出しなさい」
「往復しただけなら赤字だろう」
私もモニカもルイスもウィルコもただ働きには反対だ。
「利益は出したよ。サトウキビを絞る圧搾機を全部の村で売ったし、ついでに行商もしたから。圧搾機は利益率がいいよね」
「…借金持ちの商人たちに声をかけるつもりか?」
「そのつもりですよ、トーマスさん。もちろん僕も今後の買い付けには参加しますし」
ちゃんと利益を出しつつ、困っている商売仲間を助けようとするところがトーマスさんにそっくりだった。
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