第69話 バンスカー村へ
アントンさんとニコルさんと一緒に翌日の午後にはバンスカー村に着いた。門番とのやりとりもアントンさんとニコルさんのおかげでスムーズだ。
「そうかアンナはおめでたか!」
「アントン達を助けてくれて感謝する」
門番たちからも愛想良く挨拶してもらえた。
「皆さんには我が家に滞在してもらうから」
「その前に村長に会った方がいいな、商売について相談するといい。関係者を紹介してくれるはずだし話が早いぞ」
それは願ってもないとアントンさんたちについて行く。
「そうか!アンナがおめでたか、病気じゃなくて良かったが慌てすぎだな。食糧くらい持って出ろ」
アントンさんとニコルさんは村長さんに注意されていた。
「旅の貴重な食糧を2人に分けてくださり感謝します。広場での販売は事前に村人たちに知らせましょう。村の鍛治師には私から連絡しておきますので、まずは旅の疲れを癒してください」
「食糧は売るほどあるから大したことじゃない。商売について便宜を図ってもらって感謝する」
明日は鍛治師のところへ行って、明後日は広場で販売することになった。
滞在中はアントンさんとニコルさんの家の離れに宿泊することになった。少し離れた場所で養蜂業を始めた息子さんが以前、この離れで暮らしていたらしい。今は空き家なんだって。
「今日はうちで夕食を食べていってください。この村の伝統的な料理を作りますから」
夕食に招待された。楽しみだな。
「もし迷惑でなかったら僕に手伝わせて?」
ウィルコがイケイケだ。
「ウィルコ君は料理の手際も良いし助かるけど、いいの? 少し休んだら?」
「僕は訪れた場所の料理を習うのが好きなんだ」
私もウィルコにくっついて行くことになった。私は見てるだけね。
アントンさんとニコルさんのお家は中世ヨーロッパって感じで絵本のようだった。隅々まで可愛い。
「カプストニツァとブリンゾベー・ハルシュキを作るわ。この辺りではよく食べるの」
名前を聞いただけじゃ、どんな料理か想像出来ない。遠くに来たって感じがしてワクワクする。
「カプストニツァの作り方は、ザワークラウト、クロバッサと呼ばれるソーセージ、きのこ、玉ねぎ、パプリカ、ハーブで煮たスープよ」
これスロバキアの料理だ! 地球のスロバキアではクリスマス料理だけど、こっちの世界ではお味噌汁の様な存在らしい、一年中よく食べるんだって、各家庭に独自のレシピがあるらしい。
「材料は豚肉がメインよ。塊肉とか巨大なハムとか何種類かの豚肉の塊を用意するの。これをゴロッとしたサイズにカットして長時間煮る。キノコと玉ねぎも加えて煮る。クロバッサと呼ばれるソーセージとパプリカとハーブも入れて煮る。我が家ではクミンとローリエをいれるのよ」
これ絶対にルイスとモニカが好きな肉肉しいスープだ。どれも東欧旅行で食べたことあるけど、これはザワークラウトが効いていて酸味があって美味しかったな、サワークリームを添えて食べるのが好き。
「肉が煮えたらザワークラウトを入れていくのよ。スープの味を見ながら好みの酸味になるよう味見しながら少しずつ入れてゆくのがコツね。肉が自然とほぐれるくらい柔らかくなったら完成よ」
「ルイスとモニカが好きそうだね!」
「カレンちゃんはお父さんとお母さんて呼ばないの?」
「2人はお父さんとお母さんじゃないの」
アントンさんとニコルさんが固まる。失言だと思ってるらしい。
「商人だった私の両親が仕入れの旅の途中で殺されて、傭兵だったルイスとモニカが帰って来てくれたの。2人は私のお母さんの妹と弟なの」
「僕は傭兵だったルイスに拾われて、今は商人になったルイスの弟子」
「そうだったのかい…」
「特別なことじゃ無いよ」
「よくある身の上話だよね。ねえニコルさん、次の料理を教えて」
「…ブリンゾベー・ハルシュキは、すり下ろしたジャガイモと小麦粉をゆでて作ったダンプリングに牛乳で溶いた羊乳のチーズを絡めた料理で、カリカリに焼いたベーコンをのせて食べるの」
「絡めるのはブリンザというクリーミーで少し酸味のある羊チーズだよ」
ニコルさんの説明にアントンさんが付け加える。
これも食べたことがある。フェタチーズやカッテージチーズでも似たように仕上がる料理だ。重すぎず癖も少ないチーズ料理で良かった。
「ジャガイモをすりおろしたら、小麦粉と塩と卵を入れてよく混ぜてハルシュキの生地を作るわよ。大きな鍋で塩を加えた水を沸騰させたら生地を茹でる。生地をボテっとまな板にのせて平らに広げてから包丁で少しずつ刻みながら沸騰した鍋に落としていく。いくつか落としたら鍋の底に沈むので軽くかき混ぜてやる。ハルシュキが浮かんできたらザルに取ってね」
ニコルさんとウィルコで生地をすべて茹でた。
「水を切ったハルシュキを、温めて柔らかくしておいたチーズと和えて盛り付けたらカリカリに焼いたベーコンを乗せて完成」
「美味しそうだね! ルイスとモニカを呼んでくる!」
予想通りルイスとモニカがご機嫌だ。
「美味い!」
「ウィルコは作り方を覚えたの?いい子ね」
「気に入ってもらえてよかった」
アントンさんとニコルさんもニコニコだ。
酸味の効いたスープと、こってりなダンプリングの組み合わせが合う。明日の鍛治師との商談に向けて幸先が良いね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます