第23話 鍛治組合

翌日ガンホーさんが私たちを迎えに来た。


「あのダッチオーブンて奴を他の鍛治師にも見せてやってもらえないか、頼む」

話が早いよ!ガンホーさん最高です!


「こちらからお願いしたかったことです、どこに向かったら良いでしょうか」

モニカが満足そうに答える。

「鍛治組合に集めてあるから来てくれるか」

もちろん全員でお邪魔しますよ!



鍛治組合の建物の前で上を見上げる

「気に入ったか?」

 ガンホーさんがニヤリと笑う。鍛冶屋街の中心にある鍛治組合の建物はスチームパンクだった。周りの鍛冶屋の外観も凄い。外観から、その鍛冶屋の実力も傾向も丸分かりだ。作り込んだパーツを組み合わせて独特な世界観を生み出している。

見事な組合の建物を見上げて呆けてしまった。

「凄いねえ!」

「うん、かっこいいね」

ついうっかりウィルコと微笑み合ってしまった。いかんいかん。No ロリコン、Keep distanceだ。


「実際に必要な物や売れるものは決まった形のものばかりだからな、合間に趣味で作ったもので店先を飾ってるんだ」

「いつまででも見ていられるよ!」

「嬉しいことを言ってくれるな、入ってくれ」

 ガンホーさんに促されて組合の建物に入ると中も見事だった、私は好奇心でキョロキョロと落ち着かない。ウィルコは我が子を誇らしげに眺める父親のような目でガンホーさんを見てる。見た目が美少年のウィルコがヒゲのガンホーさんを…違和感しかない。


「他の鍛治師達ってのはどこだ?」

「大勢いるの?」

── ルイスとモニカは情緒がない。もっと内装をみてよ!一緒にキャッキャしたいよ!


「ここに初めて来て、周りを見ずに真っ直ぐに用事を済ませようとする奴は初めて見たぜ、お前らが若いのに油断ならねえ商人だって分かるぜ」

── いいえ肉以外に興味がないだけです。ガンホーさんは狼達を評価し過ぎです。


 案内された部屋に5人ほどの鍛治師がいた。昨夜、酒場でガンホーさんが熱弁を振るったため朝から呼ばれることになったらしい。

 みんな働き者だな。私だったら昨日の夜に飲み始めて今もまだ吐きながら飲んでるところだよ。外出するとしたら足りなくなったバーボンの買い出しくらいだね。だから死んじゃったんだろうけど。


「これがダッチオーブンよ」

モニカがドヤ顔だ。

「焼く、煮る、蒸す、揚げる、炒める、燻す、保温のすべてをこなす万能鍋ってとこかしら。普通のお鍋と同様に下から火で温めるだけでなくフタの上に置いた炭火で上からも加熱出来るからオーブンの様に使えるわ」

「実際に何か作ってみるか、肉料理がいいと思うぞ」

ルイスが肉を所望です。朝ごはん食べたばっかりじゃん。


 結局ポトフを作ることになりモニカとルイスが調理した。アシスタントはウィルコだ。

調理の間も鍛治師たちが鍋を囲んで議論していた。この人たちは本当に鍛治が好きなんだね。ちょっと感動的な光景だった。

 私はおばさんだから少年のようなおっさん鍛治師達を暖かく見守ったよ。40過ぎたら嘘みたいに涙もろくなってね、熱闘甲子園とかプロジェクトXを観て号泣するようになっちゃったから。今の見た目は幼女だけど。



「上からも温めるって発想は無かったな」

「鍋に厚みを持たせて食材にじっくりと火が通るようになっているのか」

「フタが重いのも意味があるな。密閉状態になって短時間で効率よく調理出来る」


 そうそう圧力鍋と同じ状態になるからね。

ルイスとモニカがポトフをよそって配ると具材の煮え具合を確かめてる。


「柔らかいな」

「普通の鍋だと、この時間でここまではいかないな」

圧力鍋と同じく状態ですからね!


「これと同じものを量産できる?」

「是非とも作らせてほしい!」

「クエンカの名物鍋にさせてもらいたい」

鍛治師たちがやる気です。


「もう一つ作ってほしい物があるの」

モニカがメスティンを取り出す。

「これは旅に携帯するための鍋よ」

折り畳まれたハンドルを伸ばすと、どよめいた。

「これは凄い発明だぞ」

「これらを作らせてもらうのに、いくら払えばいい?」


「お金は要らない、ただ良いものを適切な価格で広く販売してくれればいい」

「しかしそれじゃああんた達に利益がないだろう」

「最初の100セットだけうちに卸してくれればいい。それ以降は必要とする人に適切な価格で販売してくれ。いずれ他の土地でも似たものが作られるようになるだろうから、それまでに稼げよ」

私たちの目的は商売の利益じゃ無いけど皆んなには稼いで経済を回してもらわないとね。



「ねえそろそろお昼だよ、ナポリタンが食べたいな!」

無邪気を装ってナポリタンをアピールした。


「じゃあ作るか、ウィルコは野菜を頼む」

「私がパスタを茹でるわ」

3人が見事な連携で大量のナポリタンを仕上げた。


「美味いな!」

「この赤いのは何だ?」

「ケチャップというものだ、1ビン500ディルで販売している」

「売ってくれ!」


「美味しいよね!ケチャップはサンタンデールの新しい名物だよ」

無邪気を装う私。

「このビンも開封する前なら何カ月ももつから、長期保存したい食べ物があればビンを再利用できるよ。ちょっと手間がかかるけど」


「それって聞いたら教えてくれるのか?」

「食べ終わったらやってみせよう」


食後、早速実演した。

 ビンの煮沸消毒についてルイスがしつこいくらい強調した。空気に触れさせないことも大事だと言えば、皆んな肯いてる。

「鉄の酸化みたいなものか」

「食材も錆びるんだな」

そういう理解か。


「もう一つオイル漬けという方法もある。今日はキノコのオイル漬けだ」


 ウィルコがキノコを食べやすいサイズに切る。モニカが鍋にオリーブオイルとスライスしたニンニクと鷹の爪を入れ、香りが立ったらキノコを入れて炒めた。味付けは塩のみ。早く胡椒とか他の香辛料を広めたい。

 煮沸消毒したビンに移してキノコが完全に浸るようにオリーブオイルを注げば完成。


「どっちの方法も食材を空気に触れさせないことと容器の煮沸消毒が肝だ。キノコ以外にもオイルと一緒に食って美味いものなら肉や魚なんでもいける」

「対価も無しにこんなにいろいろ教えて貰っちゃ、おめえらが損だろう」

「ああ、このまま帰らせる訳にはいかねえ」

「あんた達に納得してもらえる礼を考えるから時間をくれ」


「どれもいずれ自然と広まるものだ」

「たまたま今日私たちから伝わっただけよ」

「しかし!」

「それなら100セットを最高の品質で頼む。それで俺らを儲けさせてくれ」


 この世界の調理器具のレベルが少し上がった。食品の長期保存が広まれば食生活のレベルも上がるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る