第218話 シャルワル村のスパイス

「こんなに風味豊かなチキンは初めてよ」

「刺激的で美味かったな」

 デモ販売の試食は好評だった。


「この料理に必要なスパイスを仕入れたくて、この村を目指してきたんだ」

「そうよ、迷った訳じゃないのよ」



「スパイス?」

「スパイスって何だ?」

 村人たちが揃って首を傾げて可愛い。


「ここら辺はカルダモンが自生しているだろう?」

「栽培して、より多く収穫してもらえたら嬉しいわ」

「カルダモン?」

 再び村人たちが首を傾げる。


「1つずつ見てもらおうよ」

 ウィルコの提案でテーブルに小皿を並べた。


「これがグリーン・カルダモンのシード

「これ、そこら中に生えてないか?」

「気にしたこと無かったわね」

 覚えがあるみたい!それそれ!


「カルダモンは標高800mから1,200mの環境でしか採れないし、天候に生産量が左右される貴重なスパイスなんだよ」

「買い取りはグラムあたりこんな感じ」


 村人たちの目がカッと見開かれた。想定を超える買い取り価格だったようだ。



「この他に仕入れたくて探しているスパイスを見せるね」

 ウィルコの呼びかけに村人たちが前のめりになる。


 この村にないスパイスも含めてカレー粉の材料になるようなスパイスや、一般に広まったらいいなと思うスパイスを一通り見せた。



 カイエンペッパー、胡椒、ニンニク、ショウガ、クミン、コリアンダー、クローブ、シナモン、カルダモン、ナツメグ、オールスパイス、キャラウェイ、フェンネル、フェヌグリー、ターメリック、サフラン、パプリカ。


「こっち側は、どこにでもあるし特に探していないが便利で美味いものだ」

 ルイスがテーブルの右端に置いたニンニクやショウガをゆびさす。


「こっち側は貴重で仕入れ先を探していて買い取り価格も高い」

 テーブルの左端に置いたカルダモンやサフランをゆびさす。



「いくつか麓の方で見たことあるぞ」

「私も見た覚えがあるわ」


 この村で栽培出来そうなスパイスが複数あってよかった。


「それぞれの買い取り価格はこのくらい。あちこちで栽培されているからカルダモンほど高くはならないの」

「いやいや充分だ!」

「本当に買い取ってもらえるのか?」


「もちろん!たくさん栽培されるようになったら買い取り価格は下がるよ。逆に天候不順なんかで市場に不足するようになったら高くなるよ」

「他の野菜なんかと同じだな」

「そうだねえ」


「今は野生の状態だけど、手入れして定期的に一定量を収穫出来るようになったら私たち以外の商人も定期的に買い取りに来ると思うわ」


「それはいいな!」

「お酒を持ってきて欲しいな」

「布も欲しいわ」


 商人の行き来が増えることを期待しているみたい。標高が高いし、今はなかなか来てくれる商人が少ないらしい。不便だよね、いろんな商品が運ばれてくるようになったら楽しいよね。


「そうなったら、どんな物を売りに来てくれるのかしら?」

「塩は必要だな」

「冬の燃料だって必要じゃないか」

村人たちの間で楽しそうに議論が始まった。



「やっぱり酒だな!」

村人たちが揃ってうなずいている。


 話し合いの結果、村人たちの優先順位はお酒が1番と決まった。塩や燃料ってもっと切実だと思うんだけどお酒が1番でいいのかな。

 シャルワル村へ仕入れに来る商人に、お酒を持っていくよう伝えないと恨まれそうだ。

…でも持ってくれば確実に売れるしWin-Winだよね。

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