第128話 開票

 投票時間が終わる前に、ほぼすべての有権者が投票を終えていた。


「無事に投票が終わって良かったね」

「投票率は90パーセント越えだな」


 投票率100パーセントに届きそうだったけど100パーセントにはならなかった。体調を崩して寝込んでいる人もいたし、北部では雪道を歩いて投票所まで出かけて行くのが辛いので棄権したという年配の人や妊婦さんもいた。

 すべての有権者が選挙権を行使できる仕組みづくりは、この世界の人たちに任せたい。



 シモンさんとウィルコは結界のリビングにいる。開票はどこででも出来るらしい。



 投票所は日本の投票所みたいにブースに区切って外からは見えないようにした。

 投票所の入り口で選挙権ある人にバッジを配布し、投票したい候補者の箱に入れてもらう仕組みにした。

 この世界、まだまだ読み書きを出来ない人がいるのだ。読み書き出来ない人も写真並みに描写した候補者の絵で自分が投票したい人に投票出来る。


 カウントは自動で行われる。シモンさんに聞いたらバッジを1つ10gにして重さを計って自動計算するらしい。

 


「投票所ごとに候補者の得票数を出します」


 シモンさんの宣言と同時に投票所のスクリーンに候補者の名前と得票数が表示される。


「次に各投票所の結果一覧表を出します」


 罫線を工夫して格好良く体裁を整えた一覧表がスクリーンに表示された。投票所の数は100を超えるが、地域ごとに列や色を変えてあって理解しやすい。


「一覧表の合計欄に得票数を表示させます」


 接戦だった。

わずかな得票差でソニアさんの当選が決まった。



 立候補したソニアさんもユセフさんも王政時代に王族や貴族から民衆を守るための自衛組織を率いていたリーダーだった。北西部の反政府組織のリーダーだったソニアさんと南部の反政府組織のリーダーだったユセフさん。


 2人とも現実と理想のバランス感がよくて行動力もあり人望もある。選挙活動期間に発表された政策も経歴も似ていたので、国中の有権者たちの間で活発に議論された。


 違いはソニアさんが女性でユセフさんが男性ってことくらいだった。北部ではソニアさんに票が集まり、南部ではユセフさんに票が集まった。これは誰もが予想したが、ソニアさんは南部でも得票数を伸ばした。

 その理由はソニアさんが女性で、政策に女性の地位向上を掲げていたから。新しい世界を作っていくことに関してはソニアさんもユセフさんも同じような政策を掲げていた。


「投票所のスクリーンを残して、他の設備を撤去します」

あっという間に投票ブースなどが消えた。


「開票結果を役所などの公的機関や教会にも表示させます」

これまた神業だった。


「じゃあ僕は、選挙が公正に行われたことと、結果を冷静に受け止めるよう神託を下すね。犯罪行為は即転移って強調するよ」


 国中が熱狂しているのでウィルコも危険だと思っているみたい。



 しかしすでに冷静さを失っていた酔っ払いが投票所への破壊行為を行い、犯罪奴隷となる事案が国のあちこちで発生した。

 破壊行為を止めようとした家族やご近所さんたちの目の前でスウッと消えてゆく酔っ払い。その場に残された人たちの『あのバカ…』という表情…。



 出所後、彼らが村に戻ってもお酒を制限される未来が見えた。お酒での失敗か…他人事と思えないよ…頑張れ。

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