第127話 投票日のハンバーガー
今日は朝7時から全国の投票所を開けて、私たちも結界で見守っている。結界のリビングのテレビに各地の投票所を映しているが平和な投票所風景だ。
ランダムで一般市民を選挙管理委員に任命していて、寒い季節に申し訳ないが朝から投票所に詰めてもらっている。
公正な選挙を実施する為に監視人が必要なことは充分に理解されたようで混乱は無かった。
この経験をもとに、いずれ人間だけで選挙を運営してもらうとも伝えてある。
「平和な投票日だね」
「これまでの準備期間に何度も神託を下して啓蒙してきた甲斐があるな」
「選挙違反は自動的に犯罪奴隷落ちだし無茶する人間もいないわよねえ」
── 暇だった。
想定通り。順調過ぎて暇。
「…昼ごはんの準備をしようか」
ウィルコがつぶやいた。
「そうですね…」
シモンさんも賛成のようだ。
「大きな肉を食いたい」
「肉汁たっぷりのね」
ルイスとモニカは通常通り。
「お昼は大きなハンバーガーにする?」
「大きいの?」
モニカの目が光った。
「大きなパティを挟めるバンズから作ろうよ」
これで時間を潰せるな…と提案したら…
「やりましょう」
シモンさんが立ち上がった。
「バンズの準備からしようね、粉を計ろう」
ウィルコがテキパキと粉を計って準備を始めてくれた。
「これで一時発酵」
「じゃあ待っている間にひき肉を作ろうか」
アイテムボックスから大きな牛肉のかたまりを出したらルイスとモニカとシモンさんがダダダダダッと包丁で叩いてミンチにする。
──これは、あんまり時間を稼げないかも…
「僕は野菜を担当するよ」
ウィルコが手際よく輪切りの玉ねぎとトマトとレタスを用意してくれた。
「次はバンズを成形して二時発酵、みんな食べたい大きさに成形してね」
── デカッ!みんなどれだけ食べるつもりだろうか…。
巨大なバンズが出来た。
ウィルコがバンズのついでに食パンなんかも仕込んでくれた、ありがたい。
「次はパティね、ひき肉は脂が多めの牛肉と赤みの牛肉をブレンドしようね」
「脂がないとパサパサしちゃうもの、脂は大事よね」
モニカがウンウン肯いている。
「これをこねて牛肉100%のパティの出来上がり、味付けの塩胡椒は焼く時に。食べたいサイズに成形してね。あ!焼くと縮むから大きめにね」
──予想通り大き過ぎだけどいいか…
「バンズの2次発酵もいいみたい、オーブンに入れて焼こう」
オーブンはタイマーをセットしたのでバンズは放っておいて大丈夫。
「バンズの焼き上がりに合わせてパティを焼いて仕上げようね、待ってる間にサイドメニューを作ろうよ」
狼化したルイスとモニカがオーブンの前から動かないのでウィルコとシモンさんと3人でスープやコールスローやフレンチフライやフライドオニオンなんかを用意した。
「モニカ、ルイス、そろそろパティを焼くから人型に戻って」
肉を焼くと聞いてルイスとモニカが戻ってきた。
「表面を整えたパティの両面に塩胡椒を振ったらオリーブオイルをひいたフライパンでパティと玉ねぎを焼く」
熱したフライパンに玉ねぎとパティを乗せるとジュっといい音がする。
「パティは片面を焼いたらひっくり返してチェダーチーズをのせてさらに焼く。焼き加減は好みでね。玉ねぎもひっくり返して両面焼いてね」
焼いている間にバンズが焼けたので取り出して半分にカットして折り畳んだレタスを乗せる。その上に焼いた玉ねぎを乗せる。その上にパティ。
私は一枚だけど、みんな巨大なパティを二枚も…かじりついたら顎が外れそう。
「パティと玉ねぎを取り出したフライパンにバターとケチャップとウスターソースを入れて肉汁と一緒に煮詰めてソースにするよ。調味料の配分は好みで調整してね」
私はケチャップとウスターソースを半分ずつ。好みの濃度に煮詰まったソースに焼いたパティを両面浸して玉ねぎの上に戻す。トマト、ピクルスを乗せてバンズでフタをして完成。
「サイドメニューと一緒に盛り付けて完成!マスタードは好みでね」
「すごいよカレン!映画で観たハンバーガーよりも大きいよ」
選挙に向けて頑張っていたウィルコが楽しそうで私も嬉しくなる。
「良かったねウィルコ、じゃあ食べようか」
ハンバーガー袋で包んで両手で持ってかぶりつく。
……美味しいー!出来立て美味ーい!
周りを見るとモニカもルイスもシモンさんも満足そうだし、アメリカ文化が大好きなウィルコは今まで見たことないくらい幸せそうだ。
「まだ食えるな…」
あっという間に巨大なハンバーガーを平らげたルイスから衝撃の一言。
「それは無理すれば入るって意味?それとも食べ足りないって意味?」
「もうちょっと食いたい」
──マジか!
「もう一つハンバーガーを作る?ロコモコにする?」
「ろこもこ?」
「ロコモコはご飯の上にハンバーグと野菜と目玉焼きを載せてグレイヴィーソースをかけたハワイ料理だよ」
「ハンバーグに目玉焼きは合うわよね」
「バンズの次はご飯がいいですね」
モニカとシモンさんも食べる気満々だった。
「僕が作るよ、グレイヴィーソースたっぷりで!」
やる気になったウィルコが手早く作ったロコモコは彩りも目玉焼きの半熟加減も完璧でルイスとモニカとシモンさんも大満足だ。
退屈な昼が楽しいランチになった。
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