第59話 選挙に向けて

 まもなく冬の選挙に向けて立候補者の受付が始まる。国のリーダーと国務長官、国防長官、商務長官などを選挙で選ぶのだ。


 国のリーダーは大統領制を採用することにした。行政府の長である大統領を国民投票によって議会とは独立して選出する政治制度だ。


 大統領は国を代表する元首、大統領がいない国では、国王が国家元首となる。この世界では王族がいなくなっちゃったからね。

 地球でもフランスとかロシアとか大統領と首相が両方存在する国はあるけど、この世界では細かいことはいい。


 大統領は国民投票で選ばれる。

 大統領が取りまとめる国務長官、国防長官、商務長官などは大統領の指名で任命されたり実際の実務の現場で選挙を実施したり実際の実務の現場で民主的に選挙で選ばたりする。

 こっちの選挙は国民投票ではなく、現場の関係者だけで投票する。実務能力と人望を兼ね備えた人が選ばれると信じている。選挙違反は犯罪で即転移だし。


 今は6月の終わりで、立候補の受付は8月1日から10月1日まで。投票日は12月15日で即日開票。

 立候補者の情報は国内のすべての教会に貼り出すので誰でも知ることが出来る。ちゃんと勉強して投票にのぞむよう神託も小出しにしよう。


 その間も私たちは行商の旅をしながら生活利便性とか健康・福祉とかインフラ整備とかに邁進します。



 休暇を終えた私たちは北部地域を回っている。今日は新しい村に到着したのだが、村が騒ついている。


「どうしたの?」

私たちをチェックしていた門番にたずねる。

「昨夜から体調を崩す村人がいてね、流行病かもしれないから入村はおすすめできないかな。行商が来てくれるのはありがたいんだけど」

「どんな症状だ?」

「吐き気と嘔吐だな、昨夜の酒盛りに参加した奴ら全員が倒れた。症状に個人差はある」


── 食中毒じゃん!


「私たち、薬は持ってないよね。残念だけど」

「ああ」

 食中毒に効く薬は無い。少しずつ漢方薬みたいな物も作りたいと思ってるけど、まだこれからだ。


「その酒盛りでは何を飲み食いしたんだ?」

「エールと腸詰めと干し肉だな。この村で酒盛りといったら、その組み合わせだ」


── となると原因は腸詰めが原因の食中毒が考えられる…その場合の原因はボツリヌス菌!ものすごくヤバいやつだよ!!


「回復後の病人食でなら役立てるかもしれん、入れてくれるか?」

「あんた達さえ良ければ…死ぬような感じじゃ無いが病人はヴァジムの家に集めてある。旅人に使ってもらう広場からは遠いけど近寄らないようにな」


 門番さんの案内で広場に向かったが、村中がざわざわしていた。

 広場に着いて、早いけど夜営の準備を進めるがウィルコが心ここにあらずだ。青ざめてフラフラしている。我が子達が気になって仕方ないようだ。

「ウィルコ、聞いた感じだと重症患者はいないようだから。座って」


 ウィルコを座らせてルイスが広場の共同竈門に火を入れてお湯を沸かすとモニカがお茶を入れてくれた。この世界のお茶はハーブティーだけど結構美味しい。


「カレンの言うボツリヌス菌というのは、どういうものなんだ?」

「自然界に存在する毒素としては最も強力って言われている」

ウィルコがクラっとしてる。


「ボツリヌス中毒の症状は筋肉の麻痺で、重症化すると呼吸筋が麻痺して呼吸ができなくなって死んでしまうんだって。私が生きていた世界でも中毒で死亡する事例があったよ」

「カレンの世界に特効薬はないの?」


「ネットによると…中毒症状を発症した場合、抗毒素はウマ血清のみ。一般に「食餌性ボツリヌス症に対する抗毒素の投与は発症から24時間以内が望ましい」とされる。ワクチンは研究者用に開発されているが、中毒になってから用いても効果がない。だって」


「そもそもこの世界に持ってきても良い薬は無いってことね。ワクチンなんて文化レベルが違いすぎるもの」

「うん…」

ウィルコがぽろぽろと涙を零す。


衝動的にやらかしそうだったのでルイスによってウィルコは結界にお持ち帰りして監禁された。

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