第8話 事業計画

 この世界の歴史と現状を自分の頭にインストールして絶望した。ウィルコの世界は修羅の国だった。だが明るい来世のためにやるしかない。


自分の部屋に戻ってPCを起動する。


── ざっくりと農業とか商業とか医療とか、今すぐにテコ入れが必要な分野で出来ることを片っ端から手を出して走りながら進む方向を定めて行こうかな。文化面は後回しだな、途方もないよ…


「まずは全国民にステータス制度を導入します」

「それはなんだ?」

「ステータスとつぶやくと、その人のステータスが表示されます。隠ぺいや改ざん不可能な神の制度です。表示されるのは名前や年齢、職業、スキル、病気などの状態異常、犯罪歴など一般的な項目の他に真面目度や職業への貢献度も表示させます。私の場合はこんな感じ」


【名前】花蓮

【種族】ヒトダマ

【性別】女

【年齢】7歳

【状態異常】なし

【職業】神の助手

【体力】220/220

【能力】S+

【スキル】

  鑑定

  アイテムボックス(容量無制限で時間経過無し)

  言語理解

  瞬間移動

  ウィルコ世界の人間への強制力

【犯罪歴】なし

【犯罪指数】0%

【職業貢献度】計測不可能


「私に付けてもらった、この世界への強制力というスキルでステータス制度を導入させます。最後の職業貢献度は、まだ1日も経っていないので計測できていないだけです。

 明日以降は表示されるようになります。これで上司に取り入るのが上手いだけで実質無能なサボり魔みたいなズルい人間を数値化して炙り出します」


「面白い。ウィルコにもステータスを導入させよう」

ルイスによってウィルコにも導入された。


ウィルコはこんな感じだ。

【名前】ウィルコ

【種族】神

【性別】男

【年齢】700歳

【状態異常】なし

【職業】神

【体力】700000/700000

【能力】A

【スキル】

  神の技

【犯罪歴】幼女の寝室への侵入罪

【犯罪指数】28%

【職業貢献度】-888888888888888%


「職業貢献度が酷いわね…マイナスいくつかしら?数える気にもならないわ。それに犯罪指数が28%って、またやる気じゃない…」

 モニカがゴミを見るような目でウィルコを見る。

「能力だって普通は神ならSSSだろう。Aってことはアレだ。かなりアレだ。鍛え甲斐があるな」


「ルイスにお願いがあります!いま表示されているウィルコの職業貢献度はこれまでの全ての合算だけど、今日から1か月ごとの貢献度も表示できるようにしてください。一般市民のステータスも合算を止めて月ごとの表示に変更します」

「構わないが何故だ?」


「お小遣いです! 人は働いて労働に対する報酬として賃金を得ます。ウィルコがサボりまくって今月の職業貢献度がマイナスになったら来月のお小遣いを減らします。一か月の貢献度が100%で満額の金貨2枚、50%なら半分の金貨1枚」

「ああ働かなかったら給料が出ない、当然だな」

「ちょ!やめてよ!」

「普通に義務を果たせばいいだけだ。年間16日の有給休暇は与えよう。まともな神なら導入されても困らん制度だ」


【当月の職業貢献度】0% が追加された。


「とりあえず事業計画が出来るまでは野菜の下拵えね。0%のままだと来月のお小遣いはゼロだから」

 ウィルコが真っ白になっているが構ってはいられない。


「この世界には奴隷制度があるよね。犯罪者は全員犯罪奴隷として確保して、犯した罪に見合った期間、農業とか鉱山とか強制的に働いて社会に貢献してもらいます。

 服役期間が終了し、さらに犯罪指数がゼロになったら一般人として生活して問題ないとして犯罪奴隷から解放します。

 解放時には、服役期間の労働に見合った賃金を積み立てておいて解放時に支払います」

「再び犯罪を犯すリスクが減るわね」

「はい。着の身着のまま放り出すようなことをしたら食べ物の窃盗とかで犯罪奴隷に逆戻りしてしまいますから。

 解放時には犯罪歴もクリアされます。偏見を持たれることなく人生をやり直せるでしょう」


「一気に治安が回復するし労働力も確保できるわね」

「いえ…そう上手くはいかないかと」

「どうしてだ?」

「この世界の犯罪率は高く、全人口の40%は犯罪奴隷になります。それだけの人口が減ると社会が乱れるのは間違いないかと…。対策としては、この世界で信仰されているウィルコ教の教会に神託を出します」

 本人を見てしまうとウィルコ教の信者が気の毒でならないが、それは置いておいて話を続ける。


「神託の内容はこうです」


 ウィルコ神は犯罪率の高さに心を痛め、全人類にステータス制度を導入することを決めた、その人物の犯罪歴や犯罪を犯す可能性を数値化した。

 犯罪歴のある者は犯罪奴隷として神が管理する施設での労働が科せられる。

犯した罪により決められた期間、犯罪奴隷として働き、社会に貢献して罪を償うのだ。

 服役期間を終えただけでは解放されない。服役期間の満了と犯罪指数がゼロになったら犯罪歴をクリアして労働への対価を渡して犯罪奴隷から解放されて一般市民に戻ることができる。

 ただし服役期間を過ぎても再犯の可能性がある者は、永久に解放されない。


 【職業貢献度】は文字通り労働の数値化だ。これは他人の労働の上に胡坐あぐらをかき、上長に取り入ることが得意で不誠実な人間を表す数値だ。犯罪ではないが不誠実であることは恥だ。経営者は労働者に対し、この数値をもとに報酬を支払わなければならない。これに違反すると犯罪と見なし犯罪者となる。


「残った人間は犯罪者以外ですが、全員が真面目な善人という訳ではありません。犯罪者ではないが、人を陥れたり不快にさせることが好きな狡猾な人間が社会を乱すことは教会を通じて抑制しますが、そのような行為が度重なれば犯罪指数に反映されます。

 この数値は誤魔化せないので世間から信用されなくなるでしょうね。

まずはこの状態に慣れてもらいながら次の計画の準備を進めます」

「次の計画って?」


「インフラ整備です。現在の都市は無計画に作られているのでインフラも整っていません。上下水道の整備は必須です。現在の王都から少し離れた場所に新しい都市を作ります。参考にするのはオランダの都市計画です」


 北海に面したオランダ西部ではアムステルダム、ハーグ、ロッテルダム、ユトレヒトの 4 大都市が円状に配置されている。この配置が帽子の縁のような形を していることから 縁の都市 (ラントスタッ ト)と呼ばれている。

 帽子の内側には緑の心臓部と呼ばれる緑地が広がっている。このラントスタットとグリーンハートを総称してグリーン・メトロポリスと呼ぶ。


「現在の王都を4大都市のうちの1つに見立てて、新しく3つの都市を作ります。犯罪奴隷の数は十分ですから問題ありません。

 奴隷による労働でインフラの整った都市を作り、移住者を募ります。住民が増えたら民主主義を教えます。それぞれの都市の首長は王族や貴族ではなく選挙で選ばれるのです。もちろん在任期間に上限ありです」


「現在の王族や貴族はどうするの?」

「ちょっとステータスをのぞいてみたんですが、自我が芽生える前の子供をのぞいてほとんどが犯罪奴隷落ちですね。使用人や一般市民を家畜のように扱って死に至らしめる人たちですから殺人や、それに近い罪に問われます。悪辣な人たちで改心の見込みは薄いですね…もしも解放されることがあっても一般市民になりますので現在の王族や貴族は自然と解体されます。

 当面は王族や貴族が不在になっても都市機能がきちんと働くようにサポートをする予定ですが、あんまり心配していません。無能なのに横やりばっかり入れてくる上長がいなくなれば、むしろスムーズに動くと思いますので。

 それよりも新しい都市ができたら、現在の王都がスラム化しないよう、不要なところはウィルコの力で解体して整備します。もちろん王城とか観光名所になりそうな部分は保全します」


「いいんじゃないか?」

「奴隷の管理はゴーレムに任せるのよね?」

「はい。人間ではないので暴力で脅すことは不可能ですし公平に管理できるから最適です。力も強いし」

「倫理観の薄さや犯罪率の高さが課題だと思ったけど、ものすごい解決方法だな」

「ここまで乱れていると地道な対策は無意味です」


きちんと成果をあげた人間が正しく評価される仕組みは花蓮かれんが前世で望んだ社会だった。

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