第2話 成仏できないの?!
── ヒトダマだらけだ。
気が付いたら周り中ヒトダマだらけの場所にいた。全然ホラーじゃない。
生まれなおす順番待ちをしているようだ。
── 早く生まれなおしたいわ~!出来ればベビーブームじゃないタイミングで英語圏か英語学習がもっと楽な国がいいな。英語できると友人関係も広がって楽しいしね。日本人の私が日常会話レベルになるのは大変だったわ。両親共に英語と縁のない日本人の私は努力して日常会話レベルの英語を身につけた。
── お国柄が肌に合う国で選ぶなら南米もいいな、コロンビアの友人はイタリア語もポルトガル語もイケてて羨ましかったわ。子供のころから勉強してたの?大人になってから?って聞いたら、ゆっくり喋ればポルトガル語はわかる。イタリア語もスペイン語と似てるから大丈夫って言ってたな、日本人て大変すぎるわ…同じ漢字文化圏の中国も簡体字はなんか違うし…。そもそも中国語というか北京語は発音が難し過ぎるわ。文法は英語だし…日本語と全然似てないよね! もう日本人には生まれてきたくないわ。
── 転職を余儀なくされた時も日本じゃなくてアメリカだったら、もっとマシだったと思うのよ。履歴書に人種や年齢を記載するの禁止だっていうし。30代女性ってだけで書類で落とされて…転職が無理ゲー過ぎた胸糞な思い出は早く忘れたいわ。
── あと、あんまり貧しい家に生まれるのは勘弁…来世でもハードモードは止めてほしい。今回の人生は受験も学生生活も就職活動も仕事も真面目に努力して結果を出してきたにも関わらずクソだったから来世はマシな環境で生まれさせて欲しいわ…。
「君!」
── 私?
「そうだよ、ずっと呼んでいたんだけど大丈夫?」
── ちょっと…いろいろ思うところがありまして
「まあ、ここに来る子は、みんなそんな感じだから気にしないで。えっと君は…ああ別室でブリーフィングがあるから、この人についていってくれるかな。この子の案内をよろしくね」
案内係の人(?)の後についていこうと思ったら足がないヒトダマなのに、ふよふよと前に進めた。不思議で楽しい。
「こちらのお部屋です」
案内の人がノックしてドアを開けてくれる。死後の世界でも、そういうマナーなのかな。死にたての私の感覚に合わせてくれているのかな。
「やあ、いらっしゃい。入って座って」
部屋の中には、物凄い美人と有能そうな事務員のような眼鏡さんとヒョロイ金髪がいた。ヒョロイ金髪がソワソワしてて気持ち悪いので出来るだけ離れたところに座る…… 座る…でいいのかな。ソファーの座面にちょこんと乗った。
「初めまして
有能そうな事務員さんが自己紹介してくれたのでペコリと会釈した…つもりだけど上手く出来ない。ヒトダマの体って小さくて扱いが難しい。
「この度はご愁傷様です」
── いえいえ不摂生な自分の生活が悪かったので。それに未練も全然ないですし!早く生まれ変わりたいし!
ウキウキな気分を隠し切れない。本当に未練もクソもないから。
しかし私が『早く成仏してえなぁ!』と、浮かれれば浮かれるほど、事務員さんの隣に座っている美人の表情が悲しそうにくもる。
「
「こんにちは!カレン」
ヒョロい金髪が馴れ馴れしい…しかしヘッドハンターですと? 良い話なら聞く価値があるので少しだけ愛想を良くしよう。
── こんにちは
(結果として不愛想になったが気にしない)
「こちらのウィルコさんから、ウィルコさんの世界の倫理観や文化レベルの向上にご協力をお願いしたいとのご依頼になります」
── 世界?
「はい。ウィルコさんは地球に似た異世界の神ですが神として世界を管理するのは初めてで、あまり上手くいっていないのです。特に食文化がひどいまま文明が進んできており、今すぐテコ入れしないと遠からず滅びるでしょう」
── でも…私に、そんな壮大な業務の管理経験ありませんよ?
「経験よりも能力です」
── そのセリフ、日本企業の人事たちに聞かせてやって!
「地球の管理は私の業務外ですので…。この業務の達成度によって
── その話、詳しく!!
ガバリと体を起こし(起こしたつもり)、事務員さんに詰め寄った。
「達成度合いによって…ですが来世の環境を
── どのくらいの達成度で、どの程度の希望が叶うのか、その一覧が欲しいです。
「こちらをどうぞ」
── 現在の食糧自給率56%を改善…56%って
って低くない? 輸入に頼れない状況でしょう。飢えてる層がいるってことね。
── 現在の地球…日本の倫理観を80%とするならヒョロ金髪の世界の倫理観は18%…低すぎっ! ちなみにヒョロ金髪の世界は西欧の中世に似た世界ね…。
「ざっくりご理解いただけましたか?」
── だいたいイメージできました。かなり大変そうですね。期限はありますか?
「期限はありません、先ほど遠からず滅びると申し上げましたがテコ入れすることで改善されるでしょうし、手を入れれば入れるほど楽になると思いますよ」
── でもなぜ私なんですか? 大学で歴史を専攻した人とかの方が向いていると思いますけど?
「先ほどのガッツです! 生まれ直したいという
就職後も求められた業務を高いレベルでこなし、転職後も、それまでとはまったく違う事務職について、すぐに適応しました。
より良い環境で生まれなおしたいという意欲と、
倫理の他に芸術ですとか治安回復ですとか、いろいろな指標があります。すべての指標を合わせて100%を超えたらお好みの国のお好みの経済状態のご家庭を選択できます。100%を超えた分はオプションです。美人度とかIQとか文学の才能とか、なんでもお好みでつけられますので」
── マジですか!?はい!私やります!必ずや、その期待に応えてみせましょう!
食い気味に返事をした。今の私ほどやる気に満ちたヒトダマはいないだろう。
「嬉しいよカレン!」
ヒョロ金髪の存在を完全に忘れていました。
── あの…でも身一つでは無理です。インターネットを自由に使えないと…。
いろいろ開発しなければならないだろう。ネットで情報を得られても実現が難しいことも多そうだ。せめていつでも必要な知識は得られるようにしてほしい。
「それは大丈夫! ね?」
ヒョロ金髪が美人に話しかける。ヒョロ金髪は浮かれているが、美人は先ほどから何度も涙をぬぐっている。どういう関係だ?
「できるだけの支援を約束するわ」
── じゃあ、地球のインターネット通販も使えるようにしてください。
「分かったわ」
いいのか…ダメ元だったんだけど。
── ため込んでて使わなかった貯金とか、不動産とかもろもろの資産を現金化して通販に使えるってことでしょうか?
「それも使えるし、ウィルコの世界の産物を買い取りして現金化もできるようにしておくわ」
── うわあ、至れり尽くせりですね。ありがとうございます。
「いいのよ…早く死にたいなんて思う世界でごめんなさい」
── ?
「あ、ご紹介を忘れておりました。こちらの方は地球の神のテラさんです」
── 早く言えや、事務員め
「すみません」
「
── ありがとうございます。でも違う世界のことでご迷惑をおかけする訳にはいかないので自力でなんとかします。
「
美人に抱きしめられた。えへへ
── その世界では、神様の助手みたいな立場ってことでいいのかな?
「うん!
ヒョロ金髪の助手か。
たぶん、こいつが無能なので世界が滅びそうなんだな…ダメ上司の下で苦労するのは間違いないが来世のためなら我慢できる。ちなみにヒョロ金髪はアイドルっぽい外見だ。アイドル好きならイケメンと思うだろう。
しかし私の好みは濃いめでマッチョなラテン男なので、どちらかというとヒョロい金髪は嫌いな顔と体だ。
死ぬ前もヒョロヒョロしたタレントやモデルを見ては『あー、早く来ないかな!ラテンなゴリラの時代』って思ってた。
もちろん共感してくれる友人はいなかった。
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