第131話 トーマスさん
「相変わらずの溺愛だな!」
ルイスとモニカにすりすりされる様子を面白がって遠くから見ていたのはトーマスさんだった。
トーマスさんは奥さんと従業員の夫婦と4人でトラカイ村へ仕入れに行って、村伝統のシンプルなリネンとヨナスさんの派手派手リネンを、馬車に乗るだけ買った商人だ。
「さっきから見ていたぞ」
「俺たちはカレンが可愛いんだ」
ルイスが堂々と溺愛を宣言する。
「トラカイ村のリネンか?」
「そうよ、この色をカレンが気に入ったから皆んなで仕立てたの」
「似合っているな、すごく目立っているぞ」
「新作がたくさんあったわよ、また仕入れに行くといいわ」
モニカが私にすりすりしながら答える。
「今日もモチモチね!」
モニカが私の頬っぺたをモチモチする。抵抗を諦めてされるがままだ。
「モニカさんやルイスさんたちは仕入れなかったのか?」
「トーマスたちがたくさん仕入れたと聞いたから当分は必要ないだろうと思って他の村で他の物産の仕入れに回った」
「それがもう無いんだ」
トーマスさんが頭をかく。
「無いってまさか」
「馬車2台分は買ったんだろう?」
「モニカさんとカレンちゃんを見てお揃いにしたいって言う親子が多くて…。シンプルな方も素材の質がいいからベッドのシーツなんかに引っ張りだこでな」
「冬に北部への仕入れはやめた方がいいぞ」
「ああ俺たちもそう言って断っているが、また問い合わせが増えそうだな」
トーマスさんがルイスとモニカとウィルコと私を順番に見る。
「次に仕入れに行く時は他の商人にも声をかけるといい、在庫はたくさんあるようだったぞ」
「そうだな、そうするよ。今の商売がうまくいっていない奴らを中心に声をかけよう」
「トーマスさんの口ぶりだと1往復で立て直しが出来そうじゃない」
「1往復では完全な建て直しは無理かもしれないけど、やり直すきっかけにはなるだろうな」
トーマスさんたちは利益を商売仲間で分け合う気持ちが強い。王政時代、厳しい生活を助け合ってきたことを忘れていないのだろう。
モチモチされながら、ほんわかした気持ちで満たされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます