第174話 サボルグ村
「北部も北西部、特に海に面した地域は割と豊かだよね」
「海の恵みがあるし海流の関係で北部にしては温暖な気候だしね」
今日は北部の中でも比較てき資源に恵まれないエリアに向かっている。ウィルコが神の力で強引に野生の甜菜を生やした地域を片っ端から回るのだ。
今はサボルグ村へ向かっている。ハンガリー北東部に似た文化の地域だ。
今日も御者席にはウィルコと私が座っている。新しい村人へ向かう時は美少年のウィルコと子供の私が警戒されずに済むから。
「こんにちは!」
「こんにちは、家族かい?」
「ええ4人で行商をしているのよ」
「雪も降らなくなってきたからな」
「それはいいな!」
「久しぶりの行商だ!」
門番さんたちが喜んで通してくれて販売許可も直ぐに出たのでさっそく広場で商品を並べていると村人たちが集まってきた。
乾燥パスタやオイル漬けのような保存食や調味料、鍋や洗濯バサミなどのほかに春に植える野菜の種をたくさん持ってきた。
キュウリ、カボチャ、トマト、ナス、ピーマン、大根、ニンジン、カブ、とうもろこし、枝豆、いんげん、キャベツ、ブロッコリー、ネギ、レタス、ほうれん草だ。
小分けにして布の袋に詰めてカレンたちが描いた野菜の絵のタグをつけて並べた。
「これは分かりやすいね、君たちが描いたのかい?」
「僕とカレンで描いたんだよ」
ウィルコは神様補正で絵が上手いが、私に絵心は無い。子供だからいいんだもん…。
「竈門の準備が出来たぞ」
「今日はナポリタンとアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノを作るわよ」
この辺りは辛い料理が好まれるので地元の唐辛子を使ってアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノを作る。保存食として乾燥パスタを広めるのだ。
「デモンストレーションを始めるわよ」
塩を加えたお湯で乾燥パスタを茹でる。
ニンニクは薄切り、赤とうがらしは半分に割って種を取る。
フライパンにオリーブオイル、ニンニク、赤とうがらしを入れたら弱火でじっくりと香りを出す。オイルがふつふつしてニンニクが薄いきつね色になったら火を止めて、イタリアンパセリのみじん切りを入れて、ゆで汁を加えて全体を馴染ませる。
少し固めにゆでたパスタを入れたフライパンをあおってソースを全体にからませる。
仕上げにオリーブオイルを加えて混ぜたらアーリオ・オリオ・ペペロンチーノの完成だ。
「栄養を考えるなら好きな野菜を入れて作るといいわ。私のおすすめは野菜ではなくお肉だけど」
モニカは安定の肉目線だ。
「ナポリタンも出来たぞ」
ルイスのナポリタンも出来上がった乗せ少量ずつ盛り付けて試食を配る。
「辛くて美味い!」
「赤いのも美味しい」
「もっと辛くてもいいな」
試食も好評で乾燥パスタが売れた。野菜の種や洗濯バサミも売れたが鍋類は動かなかった。
「これはグラノーラ・バー、ハチミツでオートミールとドライフルーツとナッツを固めたものだよ。試食してみて」
ウィルコがグラノーラ・バーを小さくしたものの試食を配る。
「美味しい!」
「ねえハチミツ買って!」
「無理よ」
「我慢しなさい」
ここまでハチミツは全然売れていない。この村ではハチミツは贅沢品で、贅沢品を買う余裕はまったく無いのだろう。買えないというやり取りがそこら中から聞こえてくる。
ぐずる子供達を連れて村人たちが帰っていき、村長さんと数人の村人が残った。
「春植えの種類はありがたいです。この村に来てくれてありがとう」
「良い春になるといいわね」
「ハチミツを自由に買えるくらい余裕ができるといいのですが…」
「この村では養蜂をやっていないのか?」
「そのような技術はありませんし。甘いものは贅沢品ですよ」
村長さんが力無くハハハと笑う。
「じゃあ甜菜の種を買ってよ!4月ごろに植え付けしたら秋には収穫出来るよ!
ウィルコが生き生きと説得をはじめた。
甜菜(ビート、または砂糖大根とも呼ばれる)は4月に植付けして収穫は10~11月。時期はぴったりだ。
僕の世界にチョコレート!という願いが透けて見えるウィルコは迫力満点だった。
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