第65話 定例会議とミートローフ

 夏といえば熱中症だけど、私たちは北部をまわっている。


 夏に南部を回るのは狼なルイスやモニカたちが南部の夏に耐えられないと思うから。生前に実家で飼っていた愛犬のマロンちゃんも夏はバテバテでクーラーの効いた部屋から動かなかった。

 とはいえ南部も気になってはいるのでウィルコと手分けして南部の情報も仕入れている。


「熱中症や日射病の警告と、なってしまった時の対処法を神託で周知した甲斐があったね」

「犯罪奴隷たちの労働も休憩を頻繁に取るようにしているし、今のところ体調を崩している人はいないみたい」


 ウィルコと1日1回、報告会をして交代で議事録を作っている。私たちが引き上げた後、ウィルコが1人でこの世界を運用して行く役に立つだろう。


「すべての村に教会を作る取り組みは、ゆっくりだけど進んでいるね」


 現在は大きめの村にしか教会は存在しない。無理のない範囲で大都市の教会から、より小さな村に聖職者を派遣するように働きかけている。運営資金は大きめの村の教会が持つから無理のない範囲でね。

「神託を下すようになってから教会への寄付が増えているよ。より多くの人たちから小額の寄付が増えてるんだ」

「それは私たちのやっている事が受け入れられているってことだよね、嬉しいな」


 政治と行政と教会は別々の組織として、それぞれが独立を保つ。これも大事な神託として全国民に度々伝えている。これを脅かすことは犯罪であるとも伝えている。


「薬用植物の栽培と調剤は行政に含めたんだよね」

「うん。基本的な栽培と調剤は免許制にする。誰でも栽培と調剤の研修は無償で受けられる仕組みにしたよ。薬剤師の試験は誰でも受験できて、民間で新薬を開発して製薬会社を立ち上げるのも自由」


 優秀な薬剤師が生まれて、製薬会社が立ち上がるのが楽しみだ。今は最低限の薬を提供できる体制を整えるのが目標だから、まだまだ先の話だけどね。


「それにしても薬用植物って種類が豊富なんだねえ」

 結界でプリントアウトして冊子にした薬用植物の一覧を読み込むウィルコ。北部から南部まで気候や風土に合ったものを栽培して相互に流通させる仕組み作りはウィルコに任せているが上手くいっている。


「それに普通に食べてるものもあるよね、以前カレンが結界で作ってくれたゴーヤチャンプルーは美味しかったよ」

 そう、ゴーヤも薬用植物だ。熟したゴーヤは種子とともに乾燥させて煎じれば解毒・解熱・下痢などに効果を発揮する。


「それにニンニクも! 疲労回復・整腸・発汗・冷え症に効果があるんだ! 美味しくて健康に良いなんて最高だね。紫蘇って大葉のことだよね? 種子は魚による中毒に効果があって、葉っぱは不眠症・リウマチ・神経痛なんかに効くんだ」



「今日は薬用植物でご飯にしようか?」

「いいね!」

ウィルコと一緒に調理開始だ。


「ゴーヤはコーンとツナのサラダにしよう」

 ゴーヤは縦半分に切ってスプーンで種とワタを取り除いたら薄切りにして塩で揉む。5分くらい置いて出てきた水分をギュッと絞る。

たっぷりのお湯でゴーヤを茹でて水にさらしてザルに上げたら堅く絞って水気をきる。缶詰のツナとコーンと一緒に塩胡椒とマヨネーズで和える。これはルイスとモニカも好きなやつだ。マヨネーズ味は間違いない。


「メインはミートローフにしようか」

主な食材は合挽ミンチ、パウンド型で作るよ。半熟ゆで卵も中に入れよう。


「玉ねぎをみじん切りにしたら、よく炒めてから冷ましておく。ボールに合挽ミンチ肉と炒めて冷ました玉ねぎ、卵、パン粉、タイム、マジョラム、ローズマリー、セージ、オレガノを入れて混ぜ合わせ、粘りが出るまでよくこねる。パウンド型にクッキングペーパーを敷いてから肉だねを半分入れたらトントンと落とし空気を抜く。そこに緩めに作った半熟ゆで卵を並べて少し押さえる。残りの肉だねを詰めてトントンする。200度に予熱したオーブンで30分~40分ほど焼く。竹串を指して透明な肉汁であればOK!肉汁が赤く濁っていたらもう少し焼いてね」


 焼いている間に付け合わせを作った。マッシュポテトとブロッコリーのニンニク炒めとアスパラのベーコン巻き。


 アスパラガスは中国で咳止めに使われているらしい。

 このほかに使ったハーブは…タイムは殺菌作用が強いので、食品の防腐剤としても利用されている。マジョラムは駆風剤くふうざいに使われる…腸管内にたまったガスを排出させる効果があるらしい。ローズマリーは皮膚病の治療に使われることもあるとか。セージには強い殺菌効果があるので、風邪や扁桃腺炎、口内炎、歯肉炎に使われることがあるらしい。 

 それぞれに相応しい使い方があるから料理に使っても薬効は期待出来ないだろうけど、ご家庭で栽培できたら、料理にも身体の不調にも使えるから栽培を奨励したい。


「汁物はミネストローネにしようよ、ミートローフがこってりだからトマトの酸味のあるスープが食べたいな」

「いいね!」

「じゃあ僕が作るね」

「ミートローフのソースは私が作るよ」

ミートローフから出た肉汁に中濃ソースとケチャップを合わせてソースにした。


ルイスとモニカが尻尾を振って待っていた。

「ご飯にしようか」


 ミートローフはパウンド型で12本も作った。ウィルコが頑張ったおかげで人型になったルイスとモニカの前に1本ずつ置かれている。ルイスとモニカがニコニコだ。

 1本はスライスしてウィルコに2切れと私に1切れ…余った分はルイスとモニカのお腹の中に直行だな。残りの9本は焼き立ての熱々を私のアイテムボックスに収納してある。


 ミートローフをカットしたら茹で卵が半熟状態を保っていた。ゆるゆるのゆで卵の殻を剥くのは難しいけど頑張った甲斐があるよね!


「これは美味いな…」

「とろりとした卵とソースを絡めて食べると、いくらでもいけるわね」

「肉汁を使ってソースにしているんだよ」

「納得の美味さだな」


 ルイスとモニカにも気に入ってもらえたのでミートローフはレギュラーメニュー入りが決まった。

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