第66話 手作りベーコン
今日は4人でベーコンを作っている。
塩漬けした豚肉を燻製にして保存性を高めるのだ。ルイスとモニカの大好物でもあるし、この世界に作り方を広めるための試作でもある。
「ずいぶん大量に用意したんだね」
ルイスとモニカが用意した下ごしらえ済の豚バラ肉の塊がカレンの前に積み上がっている。バラ肉は皮と脂身、赤身が三層になっていることから三枚肉とも呼ばれているよね。脂身が多くてルイスとモニカの大好物だ。
燻製にするので結界の庭でやる。燻製専用にしているダッチオーブンもたくさん準備した。ルイスとモニカが本気になると、付き合う私たちも大変だ。
肉の仕込みは1週間前に終わっている。コンビーフを作った時と似た手順だ。
豚肉を流水で洗う。血液などを残さないようにきれいに洗ってペーパータオルで水分を拭き取ったらフォークで豚肉に穴を開ける。肉に穴を開けることで、塩が浸透しやすくなる。
そうしたら豚肉の重量の2%から3%の塩をすり込んで塩漬け肉を作る。つまり豚肉が1kg (1,000g) の場合、塩は20gから30g。
たくさんあるから、塩のみのベーコンと塩とハーブのベーコンを作る。5割は塩のみで作り、4割は塩と黒胡椒で。残りの1割は塩とローズマリーとタイムとセージをすり込む。
すり込んだらラップやジッパー付き保存袋で密閉するんだけど、この世界に広めるためにこの世界にあるもので作る。抗菌作用のある葉っぱで包んだ。
1週間後、流水で塩を洗い流したら、さらに5~6時間ほど水に浸けて塩抜きする。
この塩抜きされた豚バラ肉の塊がカレンの前に積み上がっているのだが、ルイスとモニカは、どれだけ食べるつもりなのか…恐ろしい食欲だ。
塩抜きした後、ガーゼで包んで冷蔵庫で寝かせて豚バラ肉から水分が出るたびにガーゼを取り替えるやり方もあるんだけど、この世界に冷蔵庫は無いので茹でる。
「じゃあ塩抜きした豚肉を、たっぷりのお湯で茹でていこうか、茹でることで余分な塩分や脂分が抜けてうま味がアップするよ」
みんなで手分けして茹でまくった。ルイスとウィルコが作ってくれた竈門がフル稼働だ。
「茹でたら乾燥ね、水分を拭き取って乾燥させるよ。直射日光のあたらない風通しのいいところに干すよ」
これもなかなかの重労働だったが本気になったルイスとモニカは凄かった。ウィルコも覚醒済だから頼りになる。
乾燥が終わったら燻しだが、少しだけ燻さないで取り分けておく。
塩抜きした後、茹でずにガーゼで包んで冷蔵庫で寝かせて豚バラ肉から水分が出るたびにガーゼを取り替えて出来たものがパンチェッタ。これは茹でちゃったけど、なんちゃってパンチェッタとしてアイテムボックスに収納した。
「じゃあ燻製していこう! 1番楽しい工程だよ。保存食だから冷燻でやるよ。今回は30°Cくらいの煙で燻すよ」
このやり方は低めの温度で長時間燻すので水分が減少して保存食という意味での燻製ができるらしい。保存なら熱燻じゃないかと思い込んでいたので目から鱗だった。
冷燻は15~30℃くらいの低温で数日かけて長時間燻煙をかける方法。水分が飛ぶので長期保存できる。噛むほどに旨味を感じる燻製に仕上がるらしい。
もちろんルイスとモニカは待てないので神の技で時短してる。
ウィルコは人間たちに作り方を教えるために、この世界にある材料で出来る作り方をメモしてる。………ウィルコったら立派になって…。
ちなみに熱燻は100℃くらいの高温で短時間燻製する方法。炙って焼いたような口当たりで美味しいが、風味付けしかされていないため、保存には向かない。
温燻は60℃から70℃の中温で、数時間~1日程度燻す方法。食べやすいが長期保存には向かない。冷蔵庫保管で数日以内に食べきること。
「出来たぞカレン」
ルイスがトングで肉を持ち上げる。
「美味しそうだね! 肉汁が馴染むまで落ち着かせよう。20分から30分くらいね、すぐ切っちゃうと肉汁が流れちゃうから」
「………仕方ないな」
「…肉汁は逃すべきじゃないわね」
肉を休ませている間にテーブルを用意する。ルイスとモニカには見向きもされないと思うけど、アイテムボックスに入れてあるバーニャカウダとトマトサラダを取り出す。
「そろそろかしら?」
モニカが出来立てベーコンを贅沢に分厚く切って並べる。
「まずは出来立てをそのままいただこう! こっちのお皿が塩、こっちが塩と黒胡椒、こっちが塩とハーブね。お好みでマスタードをつけても美味しいよ」
「美味い!」
「黒胡椒のも良いわね、ハーブのも美味しいわ…」
全部、気に入ったらしい。
私は全部を少しずつ…うん、美味しい。
ウィルコに保存食を伝えられたし、アイテムボックス在庫が増えたし、今日はいい日だね!
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