【番外編】猫科の女神

 子狼の姿で神様の執務室の近くを通ったら騒がしい声が聞こえてきたので、そっとのぞいてみた。


「子供を迎えたと聞いたわよ」

「神狼のルイス君の子供だよ。名前はカレンちゃん。小さくてポフポフで可愛いんだ」


「ルイスの子供ですって!?それは挑戦し甲斐があるわね!」


── 挑戦?


神様と目が合った。



「お!ちょうどよかった。カレンちゃん、おいで〜」

 腰を落とした神様が両手を広げてスタンバイしているのでトコトコ歩いていくと掬い上げられた。


「ね!可愛いでしょう」


 神様に抱き上げられて頭のてっぺんにスリスリされる。


「似てるわね…」

 子狼な私を見てそうつぶやいたのは猫科の女神様だ。人間の頭身で頭部が猫ちゃん!


「カレンちゃん、彼女はバステト」


 バステトってエジプト神話に登場する女神の名前だ。太陽神ラーの娘で妻だっけ。

たしかラーが人間を罰するために自らの左目を抉って地上に送り出した、猫の頭部を持つ女神だ。


── それよりも猫ちゃんですよ!私は猫ちゃんも大好きなんですってば!


「初めまして、バステトさん!」

思わず尻尾がブンブン揺れてしまう。


「…ご挨拶が出来るだなんて!ルイスの娘って本当なの!?嘘ついていない?」


── バステトさんのルイスへの評価が低すぎてびっくりだよ。


尻尾の揺れが止まってしまった。


「カレンちゃんはルイス君の娘でモニカちゃんの姪っ子だよ。似てるでしょう?」


 ルイスもモニカも私もハスキー犬の見た目だから当然似ている。同じ犬種のワンコみたいなものだ。



「ふふふ…望むところよ。大人しそうなふりをしても騙されないわよ。さあ、かかってらっしゃい!」


 バステトさんがアイテムボックスからガラガラを取り出して私に向かってガラガラする。


 すん!って真顔になった。


「バステトさん、遊んでくれようとしてくれて、ありがとう。でも私は赤ちゃんじゃないからガラガラでは遊ばないよ」


「カレンちゃん。あれはガラガラじゃなくてシストラム。古代エジプトの打楽器でバステトはいつも手に持っているんだよ」

「モニカとルイスは隙あらば飛びかかってきてね。何度も奪われて破壊されたものよ」


── そんなことしてたのか…


「父と伯母がすみません。女神様の神具を奪って破壊するなんて…」

耳を倒して謝罪した。



「………やっぱり養子なんでしょう?」


ルイスの実子であると信じてもらえなかった

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