【番外編】猫科の3姉妹

「バステトじゃないか?久しぶりだな!」


 訪ねてきたバステトさんに『過去に何もありませんでしたよ!』って感じで爽やかに挨拶するルイス狼。


「私に飛びかかって神具を奪って破壊したことは覚えてる?」

「そんなこと、あったか?」

「25回もね!」

「覚えていねえな!今日はどうした?ゆっくりしていってくれ」


 子供の頃にシモンさんの眼鏡を壊したことは覚えてるのにバステトさんの神具を壊したことは本当に覚えていないらしい。

 シストラムは子供をあやすガラガラに似ているから赤ちゃんの頃の出来事なのかも。それなら神様やモニカたち保護者の責任だな。



「今日はルイスが幼児虐待していないか見にきたのよ」

「私たち3人でね!」

「全員を欺くことは出来ないわよ」


「セクメトもテフヌトも久しぶりだな!」


 セクメトはライオンの頭を持つ破壊の女神で、テフヌトはライオンの頭を持った湿気の女神でバステトと3姉妹だ。



── ライオンさん可愛くてカッコいい〜!


 バステトさんも魅力的だけどセクメトさんもテフヌトさんも負けていない。耳が立ち上がり尻尾が勢いよく振られてしまう。



「ほら3人とも入って」

神様が3人を迎えてくれた。


「紅茶をどうぞ。お茶請けはエジプトの人気店から出前したから気に入ってもらえると思うの。クナファとクッキーとサンブーサク」


 クナファは小麦でできた極細の麺をギュッと固めたような見た目の激甘な焼き菓子で、クッキーはエジプトでは断食明けのお祝いの定番らしい。美味しそうなクッキーを扱うお店が多くて目移りした。

 サンブーサクは挽き肉やチーズを詰めた餃子っぽい形のパイ。ルイスは甘いものを好まないから多めに取り寄せた。


「まあ!」

「ありがとう」

「美味しそうね」


 3姉妹と神様はスイーツを味わっている。ルイスはサンブーサク。


「この挽き肉のパイ美味いな!」

「ルイスが好きそうだなって思ったんだ」

「今度一緒に作ってみるか?」

「うん」

ルイスと一緒に料理するのは楽しいから大歓迎だ。


「美味しいクッキーね」

「気に入った?エジプトの人気店から取り寄せたんだよ」

「昔からたみがお供えしてくれるクッキーに似ているわ」


「甘味は高価な貴重品だよね。バステトさんたちは熱心に信仰されているんだね」


「ぐすっ」

たみったら…」

「もっと加護を手厚くしてあげたいわね」

 猫科の女神3姉妹は涙もろい性格だった。



「今日は家庭訪問に来たのよ」

「ルイスのね!」

「ちゃんと子育て出来ているのかしら?」

3姉妹の目がキラリと光った。


「ルイス君は良いお父さんだよ。いつもカレンちゃんに寄り添って可愛いんだ」

神様がハートを撒き散らす。


「病気の時もずっと側にいてくれて嬉しかったよ」

「病気ですって!?」

「いったい何があったの?」

獣口病けものくちびょうで3週間くらい喋れなかったの」


「カレンちゃんは野生化しなかったんだけど病気の間は子供らしく甘えんぼで可愛かったんだよ」

神様が再びハートを撒き散らす。


「あの時はルイスが離れるのが受け入れられなくて、ルイスがちょっとでも離れるとキャンキャン泣いちゃったんだ」

恥ずかしくて顔が赤くなる。


「可愛いカレンの為だからな」

「やつれて毛皮がパサパサになって目の下のクマが酷くなっちゃってごめんね」

「そんなこと気にすんな」


「カレンちゃんのヘアアレンジもルイス君だよ。地球の動画サイトで研究して毎朝ルイス君が結っているんだよ」

「カレンの前世からの習慣だからな」


「あのルイスが…」

「ちゃんと父親なのね」

「嘘みたいだけど現実なのね」


 猫科の3姉妹は優美な姿で見た目は本物の猫っぽく気まぐれな性格かと思ったけど、実際は涙もろくてお節介な世話焼きおばちゃんだった。



「心配して来てくれてありがとう。いつもの生活を見てもらえたら安心してもらえるかな。一緒にご飯を作って食べて行って?」

「それはいいな!バステトたちの好きそうなものを作ろう」


 エジプトっぽいフラットブレッドにひよこ豆のペーストのフムス、焼きナスのペーストのババガヌシュ、モロヘイヤのチキンスープ、ルイス好みのマカローナ・ベシャーメールをつくった。

 マカローナ・ベシャーメールはベシャメルソースと挽肉、茹でたリガトーニをオーブンで焼いた、マカロニグラタン風の料理だ。


「本当に仲の良い親子なのね」

「調理の様子も微笑ましかったわね」

「どの料理も美味しいわ」



 3姉妹はツナのテリーヌもたくさん食べてくれた。テリーヌタイプの猫用ウェットフードをイメージして作ったのは内緒だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る