第108話 結界でパン作り

 ホームベーカリーじゃ足りないな。やっぱりアレのプロ用にしよう。


 ここのところ働き過ぎだったので結界で連休を取ることにした。結界で過ごせば時間経過無しって最高、気兼ねなく休める。

 久しぶりの連休、日本のパン屋さんみたいな惣菜パンを焼くのだ。


 コーンマヨ、ハムチーズ、ベーコンエピ、てりマヨチキン、ウインナーロール、カレーパン、チーズパン、明太ポテト、コロッケサンド、明太チーズフランス。

 禁断の焼きそばパンも作っちゃおうかな。あとジャガイモがゴロッと丸々1個入ったベイクドポテトも好きなんだよね。


「ウィルコ、どう?」

「イケると思う」

熟練のパン職人の動画をウィルコに見てもらったら自信満々のコメントが返ってきた。

 日本の街のパン屋さんで売っている惣菜パンが食べたかったんだよね、ウィルコの様子からすると期待できそうだ。もちろん私も頑張るよ。


「中に入れるチキンの照り焼きとかハムとかカレーは用意してあるよ」

 ルイス狼とモニカ狼のつまみ食いで半分に減っちゃったけど。『照り焼き美味いな!』とか『ハムは分厚く切ると美味しいのよ』とか邪魔と圧力が凄かった。


「まずは粉類を混ぜて発酵だよね、この機械は便利だね」

 キッチンエイドのスタンドミキサーを買っちゃった。パン生地とかピザ生地みたいな重たい生地もしっかり捏ね上げてくれるから頼もしい。プロ仕様なら一度に1kgくらいの生地を仕込める。

 ウィルコが手順通りに生地を作ってくれるので私は隣で見てるだけ。つまみ食いに満足したルイス狼とモニカ狼は昼寝してる。



「発酵が終わった頃かな」

 まだ夏の終わりなので暖かいから発酵にはいいね。期待通り大きく膨らんでいたのでウィルコと2人で成形した。

──ウィルコがいてくれて良かった…5kgの生地を焼こうなんて無謀だったよ。


 でも焼いてよかった。焼き立てをアイテムボックスに入れておけば、いつでも美味しい総菜パンを楽しめる。

 結界のオーブンは業務用だから一度にたくさん焼けるけど、それでも3回は焼かないと終わらないな。


 オーブンをブンブン回して用意した生地が全部焼けた。ルイス狼とモニカ狼の圧力が凄かったが、負けずに全部アイテムボックスにしまった。

「全部出来てから焼き立てを一緒に食べたいから我慢してよ」

「仕方ないわね」

モニカ狼がルイス狼を抑えてくれる。


「じゃあサンド類のコロッケとトンカツ、エビフライ、カレーパンを揚げていくよ」

「私はコロッケサンドとかに使うキャベツの千切りなんかを準備するね」


 ルイス狼とモニカ狼はキャベツの千切りは完全無視でウィルコの背後から動かない…。助かった、この隙にホワイトソースを作っちゃおう。


 小鍋にバターを溶かして、ふるった小麦粉を加えてよく混ぜる。全体がなじんだら牛乳を3回に分けて加え、そのつど混ぜてもったりとしたら火を止める。


「カレン、全部揚がったよ。このキャベツを使うね」

「うん、ありがとう」

 バーガーやサンド用に焼いたバンズやパン・ド・ミに手際よくバターや辛子を塗ってキャベツどっさり、その上に揚げたてのコロッケを乗せるとキャベツがコロッケの熱でしなしなと馴染む。コロッケサンドにエビフライサンドにカツサンド。ソースもタルタルソースもたっぷり。

 エビフライサンドはパン・ド・ミで作った。タルタルソース入りで薄焼き卵も挟んである名古屋スタイルだ。

 ハンバーグサンドはゆで卵の輪切りとレタスも一緒に挟んだ。


 その間に本格的なレシピでクロックムッシュを作るよ。こっちはトヨ型で焼いたパンをスライスする。

 トヨ型のトヨが日本語で雨樋あまどいのことだと知った時は衝撃だったな。トヨ型じゃなくてトイ型じゃん。別名レーリュッケン、こちらはドイツ語で鹿の背って意味らしい。


 スライスしたパンにホワイトソースを塗ってハムを乗せる。贅沢に3枚いっちゃおうかな。もう1枚のパンにホワイトソースを塗る。塗った面を下にしてハムに乗せたら、その上にホワイトソースを塗って、上にチーズを乗せる。すでに温まっているオーブンに並べて180℃で約20分焼く。


 ルイス狼とモニカ狼がオーブンの前に移動したのでキッチンを片付けてテーブルの準備もしちゃおう。作り置きのオニオンスープも温めた。


 ピピッとオーブンが鳴ったのでウィルコがクロックムッシュを取り出してくれた。ホワイトソースとチーズがジュウジュウ音を立てている。これはたまらない。


「ご飯にしよう!」


 ウィルコが私用にクロックムッシュも総菜パンも小さくカットしてくれた。私は全部を少しずつ。

「いただきまーす」

 まずはクロックムッシュから。チーズとホワイトソースが熱い!


「これは美味いな!」

「ルイスはホワイトソースが好きだよね」

 オムライスを作った時もクリームソースをかけたのがルイスのお気に入りだった。

「ああ、あれも美味い」


 次は揚げたてのカレーパンをいただこうかな。

──カシュッ!

 齧ったら美味しい音がした!外側のパンがサクサクでカレーも美味しい。


「カツサンドも美味しいわよ。ウィルコの揚げ物はカラッとしてて美味しいわね」

「そうかな、ありがとう」

 モニカは相変わらずトンカツ好きだな。確かにこのカツは美味しく揚がっている。ルイス狼とモニカ狼に見られながら平常心で揚げたウィルコは凄いよ。


「何これ!美味しい!これ好き…」

 ウィルコがハマったのはコロッケサンドと焼そばパンだ。ウィルコは金髪の美少年だけど炭水化物が好きだ。

「ウィルコの好みに合うと思ったよ」


「こっちのパンも美味いな!甘いパン生地にしょっぱい総菜が合う」

「たまに凄く食べたくなるんだよね、私は次はコーンマヨのパン!」

 これも美味しい…甘いパン生地に焼けたマヨネーズとスイートコーンの組み合わせ大好き。具沢山にしてもらって正解だな。ウインナーロールも明太フランスも美味しい…。



 全部を少しずつ食べて満足…ルイスとモニカもたくさん食べてくれたよ。

「パンのランチは気に入った?」

「ああ。焼きたての匂いもいいな」

「他にも食べ方があるんじゃない?」

 モニカは鋭いな。パンの美味しい食べ方はいろいろあるのだ。


「今度、シモンさんとテラ様も呼んで他の食べ方も試そうよ。明日の朝食はクロックマダムで決まりね」


 ぽっこりお腹のルイス狼とモニカ狼が尻尾を振る。

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