第73話 取れたてのハチミツを試食
収穫を終えてアントンさんとニコルさんの家に戻り、さっそく試食させてもらった。黄金色のハチミツを昨夜の残りのパンにかけて食べる。
「美味しい!すっごく甘いね」
「取れたてのハチミツって、こんなに風味が豊かなんだ…」
ウィルコと目を合わせて笑ってしまった、美味しくてびっくりだ。
「以前は蜂蜜税として物納させられて、ほとんど私たちの口には入らなかったのよ、ハチミツもハチミツを発酵させて作ったハニーワインもね」
「ミツバチを増やして収穫を増やせば増やしただけ持って行かれてね」
領主だった貴族も貴族に仕えていた徴税請負人も全員が神託を機に消えたらしい。間違いなく犯罪者として服役中だな。
このタイプの犯罪者の罪は重い。領民を守るべき立場にありながら多くの人を餓死の危険に晒したのだ。それだけでなく命の危険を感じて行動した人々の訴えを暴力で退けたのだから。
新しい社会作りが出来上がって一般社会に戻ることがあっても以前のように振る舞ったら、即座に通報されて治安維持部隊に身柄を拘束させて社会が変わったことを身を持って知るようにさせるし、場合によっては再び服役だ。
「まあ、うちの村だけの話じゃないし、これからのことを考えるのは楽しいわよ」
ニコルさんが前向きに微笑む。
…しかしウィルコをどうしよう。はらはらと涙をこぼしている。
「ウィルコ! これからのことを考えよう?ね?」
慌てた私がウィルコを何とかしようと必死に呼びかけるが泣き止まない。
「…ウィルコ君も苦労したのね」
「カレンちゃんの言う通り、これからのことを考えて希望を持ってな?」
ウィルコの怪しい振る舞いに焦っていたらアントンさんとニコルさんが良いように解釈してくれた。
すみません…この美少年は理不尽な社会の被害者ではなく、皆さんの苦労に責任を負う神なんです!言えないけど!
「そうそう、あれを開けましょうね」
アントンさんとニコルさんが薄い黄金色の液体が入ったビンを持ってきた。もしかして…。
「これがハニーワインよ」
「蜂蜜酒(ミード)とも呼ばれているな」
アントンさんとニコルさんとウィルコの前に置かれたグラスにストレートで注がれた。
── いいなあ…
「カレンちゃんは少しだけ舐めてみて。水と蜂蜜を混ぜて放置しておくと自然にお酒になるんだよ」
アントンさんが少しだけ私にも注いでくれた。
「ハチミツの味!」
「うん、お酒っぽい感じはあまりしないかな、甘くてカレンが好きそう」
ウィルコは私を子供扱いし過ぎですよ!甘くて美味しいけど。
「カレンちゃんには果汁で割ってあげようね」
ニコルさんがハニーワインを注ぎ足してからリンゴジュースで割ってくれた。ほぼジュースだけど嬉しいな。
「美味しいね、これ大好き」
アントンさんとニコルさんは、孫が生まれて大きくなったら一緒にハニーワインを飲みたいと楽しそうに話してくれた。世界が一変してから未来に希望を持てるようになったんだって。
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