第72話 ハチミツを採取

 ルイスたちは酒盛りが楽しかったようだ。いいなあ…早く生まれ変わって大人になりたい。


 そんな私は早朝からウィルコと一緒にアントンさんとニコルさんにくっついてきた。養蜂に興味があるのだ。ハチミツの収穫は春に行うけど、この辺りは寒さが厳しいので初夏が収穫の時期らしい。

 ちなみに冷燻はモニカが見守っている。夜の冷燻当番という名の酒盛りを終えたルイスは眠っている。いいなあ…燻製で酒盛り。


 結構な装備になった。帽子に面布、長ズボンに長靴(ズボンの裾は長靴にin)、厚手の手袋もしているし、ミツバチから顔を守るために面布と呼ばれる細かい目の網をかぶっている。アントンさんとニコルさんの子供達が小さな頃に使っていたものを貸してくれた。


 ちなみに今日は早起きした。その日にミツバチが集めた糖度の低い薄い蜜が混ざってしまわないように早朝に作業をするらしい。いっそ夜でも良くないか?と思った私は朝が弱いタイプだ。


「この村は未開拓の自然が近くに残っているから春先から秋まで花が咲いているんだよ。何ヶ所かに分散して養蜂場を設置しているんだ」


 アントンさんとニコルさんにくっついて養蜂場に到着した。


「これが巣箱だよ」

 アントンさんが見せてくれたのはラングストロス式巣箱に似たものだった。19世紀の中頃にラングストロスという人が発明したもので現在でも世界中で広く使われているタイプの巣箱だ。


「これは燻煙器くんえんき。巣箱を空けた時、これでミツバチに煙を吹きかけて大人しくさせるのよ」

 ニコルさんが使って見せてくれた。


「今日は採蜜…ハチミツの収穫をするよ。巣枠を巣箱から取り出すとミツバチがくっついてくるから、払い落とす時に使うのがこのブラシ。使う時はハチミツがくっつかないように水で濡らしてね」


 アントンさんとニコルさんが手際良く巣枠を取り出すと、手順をみて覚えたウィルコも採蜜に加わる。覚醒したウィルコは本当に神だった。

 蜜ブタがされて80度近くまで糖度が濃縮されたハチミツをたっぷりと含んだ巣枠を、遠心分離器の中に放射状に設置して回転させる。もちろん蜜ブタをナイフで丁寧に切り取ってからだ。ハチミツは遠心分離器の下に溜まる仕組みだ。


「いっぱい取れたね!」

 ハチミツをみて興奮してしまう。自然と子供らしい言葉が飛び出した。


「今日、採蜜する予定だったから急いで帰って来たんだよ」

「採蜜する一週間前に年越しのハチミツを採取、その一週間後に採蜜するの。年越しのハチミツを採取した日に村を飛び出して娘に会いに行っちゃったから」

 アントンさんとニコルさんが恥ずかし嬉しそうだ。

「病気じゃなくてよかったね」

「ええ、本当に」

ウィルコの働きで収穫は順調に進んだ。


「ウィルコ君が手伝ってくれて助かったよ」

「若い人がいると助かるわ」

…そう。ウィルコは収穫したハチミツを運ぶのにも大活躍だった。


「ハチミツの収穫は楽しかったよ」

 ウィルコはアントンさんとニコルさんを我が子を見つめるような目でみてるし、アントンさんとニコルさんは孫を見るような目でウィルコを見ている。


なんだ!この空間!?

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