第61話 栄養満点の回復食
深刻な症状の人はいなかったようで、翌日には村人達は回復してきた。
「今回はデモンストレーションで栄養満点の回復食を作らない?」
「いいな!」
ルイス達も賛成してくれた。
「食中毒の症状は下痢や嘔吐、腹痛、発熱だから体力を消耗しているし、体内の水分やミネラルを失っているから、それを補ってあげないと。脱水症状を起こしている人がいるかもしれないから水分は多めに取ってもらおうね。スープからはじめて次に消化の良いもの」
「消化に良いものって?」
「ずいぶん曖昧だな」
ウィルコとルイスの指摘はごもっともです。
「食物繊維、脂質、甘味、塩味の強いものや刺激物を控えるって覚えておけば大体オッケーだよ。内臓に負担をかけるものは避ける。
脂質が少なくて温かくて柔らかく調理したもの…以前作ったストラッチャテッラ(イタリア風かき玉スープ)を作ろうよ。パスタをくたくたに煮込めばお腹に優しいよ」
「カンパニアに向かう旅の途中で食ったやつか」
「パオロさん達も気に入ってくれたから、この世界の人たちにも受け入れられるよ」
「僕が作るよ、デモンストレーションがてら病人の人たちに振る舞いたいって村長さんに交渉してくる」
「前回は固形スープの素を使ったけど今回は出汁から作るので手間だけど」
「大丈夫、僕の料理の腕前も上達したんだよ。脂質を控えるからチーズと風味付けのオリーブオイルは無しでね」
「うん」
販売のために通常はデモンストレーションをしているが、それよりも病人に回復食を振る舞いたいというウィルコの熱意は村人に受け入れられた。
そこで衛生面の注意喚起も行う予定だ。
「食材は高温になりやすい場所や日光のあたる場所、湿気が多い場所での保存は避けて、出来るだけ早く使い切ること」
ウィルコは美形なので女性に人気だ。素直に聞いてくれている。
「調理の前によく手を洗ってね。食材も流水できれいに洗うよ。生肉や魚が野菜とか、生で食べるものや、調理の済んだものに触れないようにしてね。こういったことが原因で今回のような腹痛や嘔吐が起きるから」
村人が騒つく。このような知識は無かったらしい。
「生肉や魚、卵を触ったら、その都度手を洗う。包丁やまな板は肉、魚、野菜を切ったら、その都度きれいに洗う。腹痛じゃ済まないことがあるからね」
前例があるのか真剣に聞いている。
「村長さんに分けてもらった鶏ガラを煮てスープを作るよ。このダッチオーブンにガラと水と香味野菜を一緒に入れて火にかける。灰汁が出たらすくう。弱火でコトコトじっくりと煮る」
「香味野菜って?」
「料理の味を引き締めたり、深みを出したりする効果があるよ。肉や魚の臭みを消す効果もあるね。今日はタマネギとセロリを使う」
村人からの質問に淀みなく答えるウィルコ。半年前とは別人…別神だよ。
煮込んでいる間、村人達とウィルコの間で会話が弾む。ウィルコが嬉しそうだ。最近はロリコンっぽい振る舞いが無いし、すごくまとも。
「スープが澄んできたから濾して塩・こしょうで味を調えて出汁が完成。これをベースにかき玉スープを作るよ。まずはパスタを折る。フェデリーニを2~3cmの長さに折ったらスープにパスタを加える。いつもはアルデンテに仕上げるけど、今回は消化に良いようにクタクタになるまでね。そうしたら溶きほぐした卵液を回し入れてよく混ぜて薄く塩で味を調えて出来上がり」
ダッチオーブンのほか、クエンカで作ってもらった寸胴鍋3つで同時に作った。見学の人たちへの試食は少し、病人には多めに。
「美味しい…骨を煮ただけなのに」
「これなら真似出来るよ」
「でも面倒ね…」
そうなんだ手間と時間がかかるんだよね。でも食料自給率が上がるまで、どんなものも無駄にせず頑張って欲しい。
村人達の感想を背後に聞きながら私も病人の皆さんにスープを配る。
「どうぞ、熱いので気をつけてね」
「ウィルコ君って美形ね…」
「なんか神々しいくらい整ってる…」
若いお嬢さん達が噂している。
── 神ですから!
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