第77話 ケチャップが受け入れられたよ

 燻製肉のスープは村長さんにも好評だった。小麦粉でとろみをつけて牛乳で煮込んだら村の伝統料理に近い味のシチューになった。


「冬場は雪で保存することが可能になるものの肝心の食料自体が無くなってしまうことがこの村の課題だったのです。燻製のほかにも瓶詰めで保存する方法も教えていただきましたし、今年は今までより安心して冬を迎えられそうです」

「それは良かったわ」

 村長さんの言葉に肯く私たち。寒い上に飢えるのは辛いよね。


「それよりも村長!」

 アントンさんが何かを思い出したように村長さんを急き立てる。

「あ、ああ、そうだった」

「ハニーケチャップで焼いたお肉を村長にお裾分けしたのよ」

「お口に合いましたか?」

「合ったどころじゃないぞ!ケチャップという調味料を売って貰えないか?」


 この間、広場でデモ販売した時には全然売れなかったのに。


「調理器具を片付ける前で良かったわ、ついでに作ってみせましょう」

「僕、肉を取ってくるよ」

「竈門の火は俺に任せろ」

モニカとウィルコとルイスが手際よく動く。


 ウィルコがチキンとポークを一口サイズにカットしていく横でモニカが調味料を合わせる。


「ハチミツ、すりおろし生姜、トマトケチャップ、白ワイン、塩をよく混ぜておいてね、ウィルコ、お肉はどう?」

「出来てるよ。カットしたお肉に塩と白ワインで下味をつけるよ」

モニカとウィルコが連携して実演する。


「火もちょうど良いぞ」

「ありがとうルイス。じゃあ私がポーク、ウィルコがチキンを焼いていくわね。手順は同じよ。フライパンに油をひいて肉を炒める。肉に火が通ってきたら合わせておいた調味料をいれて絡める。美味しそうに照りが出てきたら完成」

 お皿に移して、爪楊枝と一緒に村人に回す。


「美味いな」

「ハチミツの甘さは感じないな」

「ケチャップって?」

「あの赤いのは何?」


「ケチャップはトマトという野菜を煮詰めて作った調味料よ。すりおろした玉ねぎも入っているわね」

「トマトは暖かい地域でよく育つ栄養豊富な赤い野菜だ」

「甘辛い味付けって美味しいよね!」

無邪気に発言して、村人たちの反応を待つ。



「この味、好きだわ」

「私も」

「…ケチャップを売って貰えないか?」


やった!ケチャップが受け入れられたよ!


「在庫は十分にあるわ、開封前は日持ちする調味料だけど開封した後は腐りやすいから冷暗所で保存してね」

「料理に使う分量は少ないから1家庭に1ビンで十分だぞ、多めに買ってくれたら俺たちは嬉しいが腐らせたら勿体ない」


 それもそうだと村人たちが順番に購入してくれた。

 嬉しかった。

伝統以外の味付けを受け入れてもらえたら、食料不足を解決する選択肢が増えるよ。

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