第157話 手作り軟膏

 結界でご飯を食べてお風呂に入って、フカフカのお布団で眠った私たちは、翌日またアル・アシマ村に来た。


「もうほとんど乾いているね」

アル・アシマ村の乾燥した気候が幸いした。


「これで抽出に移れるわね。煮沸消毒した容器にキンセンカの花びらとオリーブオイルを詰めるの。2週間ほどで薬効を抽出できるわ」

 これも村人全員でやった。量が多かったので半日かかった。


「直射日光が直接当たらない涼しい場所で保管して、1日1回は振り混ぜてね」

「2週間ほどで次の作業に移れるから、その頃にまた来る。それまでに軟膏を入れる容器を作ってくれ」

「このくらいのサイズで、素焼きの陶器で充分だよ」


 前金を払っていったんアル・アシマ村を離れた。


 行商しながら周囲の村を回って染料や乳香などを仕入れた。染料は複数の村でいくつかの種類があった。

 これらの染料はヨナスさんに持っていこう。ヨナスさんが気に入ったら自然と広まるし、そうなったら他の商人が仕入れに来てくれるだろう。

 

 南部で染料を仕入れていたら2週間経ったのでアル・アシマ村に戻った。



「ガーゼでろ過して浸出油を取り出すぞ」


 またしても村人全員で行い、浸出油を取り出せた。この侵出油とミツロウを湯煎にかけて、よくかき混ぜながら溶かす。

私たちが持参したラベンダーオイルで香りをつけて容器に移して固まれば完成だ。かなり大量にできた。


 みんなで少し手に塗ってみると、よく伸びるし香りも良い。


「これはいいですな!」

村長さんと村人たちにも好感触だった。


「約束したグラムあたりの単価で買い取るわ!」

「他の地域でも作り出すだろうから、来年からは今回ほど作らない方がいいかもしれないぞ」

「このあたりは乾燥しているから村のみんなで使うために作っても良いんじゃないかな」


 村人達が自分たちの好きな香りで作ると張り切り出した。もっと余裕が出来たら女性むけに手作り基礎化粧品を広めたい。もう少し待っててね。


 名残惜しいけどピュアな村長さんに別れを告げて北部に転移した。

 先に回った村をもう一度回って軟膏の作り方のデモンストレーションをしながら軟膏を販売したら飛ぶように売れた。


 蜜蝋が手に入る村では春になったら自分たちで作ると村人たちが張り切っていた。蜜蝋のない村でもキンセンカの浸出油でケアすると言っていたが何ヶ月ももつものでは無いから早めに使い切るよう念を押した。

 古くなったものを使ったら手荒れが悪化する可能性があるし肌がかぶれたりトラブルの原因になるだろうとも伝えた。



 軟膏のレシピはパブリックドメインに追加したので誰でも閲覧して利用できるようになった。

 効果のある医療を誰もが必要な時に受けられるようになるまで、まだまだ時間がかかるだろう。それまでは、こういった軟膏などで痛みや苦しみを和らげることが精一杯なのが悔しいが仕方ない。少しずつ進んでいこう。

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