第156話 アル・アシマ村

 北部の村を回って気付いた。

どの村でも手荒れが痛々しい。まずは治療が必要だし、良くなったらぶり返さないように対策が必要だ。


「いろいろ調べてみたんだけど、国中どこにでも生えているキンセンカで軟膏を作れるみたい」


 キンセンカはカレンデュラとも呼ばれる春咲きの一年草だ。キンセンカの軟膏は火傷からニキビまで幅広い皮膚のトラブルの治療薬になるらしい。


「南部ではもう咲き始めているよ、取り急ぎ南部で作って北部に持っていく?」

「それがいいわ、北部で咲くのを待っていられないもの」


 全員一致で南部のアル・アシマ村に向かった。今日の御者席はウィルコとルイス。


「とても自然豊かな村で抜いても抜いてもキンセンカが生えてくるのが悩みの種なんだって」

「今の俺たちからすると贅沢な悩みだな」

「それに養蜂も盛んな村なのも都合が良いよね」

軟膏作りに蜜蝋は欠かせない材料なのだ



「村が見えてきたよ」


4人揃って門番に挨拶した。

「王都から行商なんて久しぶりだな」

「ここまで来てくれる王都の商人は少ないんだ」


 思った以上に歓迎された。王都から遠すぎるため、なかなか商人が来ないらしい。


 広場でのデモ販売が許可されたので、さっそくいつものデモンストレーションだ。

遠方の商品が珍しいらしく反応が良すぎて楽しい。試食も人気でケチャップが売れたし、グラノーラ・バーのデモではドライフルーツが売れたがハチミツは売るほどあるぞと笑いが起きた


 南の気のいい村人たちだが、今回ばかりはのんびり交流を楽しんではいられない。

 デモ販売の後、村長さんに面会を求めると許可された。



「デモンストレーションは楽しかったよ、試食も美味しかった。ぜひまた来て欲しいんだが、作って欲しいものというのは?それを作ったら定期的に来てもらえるのかな?」


 村長さんがノリノリだった。村長さん以外の村の人たちも肯いている。

 意外なことにデモンストレーションの時にピュア過ぎる大げさな反応で目立っていたおじいちゃんが村長さんだった。


「作って欲しいのはこれよ」

「キンセンカの軟膏だ」


私たちで試作した軟膏を見せる。


「どうぞ使ってみてちょうだい」

「手荒れに効くんだよ、北部の冬はとても厳しくて、水仕事が原因で手が割れてぱっくりひび割れることも多いんだ」

「キンセンカには皮膚や粘膜を修復したり保護する作用があるの」


村長さんたちの目が驚きで見開かれた。


「キンセンカは雑草だろう?」

「抜いても抜いても生えてくる村の天敵だぞ」

村人たちが騒つく。


「キンセンカの効果は本当だ。それに軟膏を作るために蜜蝋も必要なんだ」


「だからうちの村なのか」

「そうよ、引き受けてくれるなら作り方は教えるわ」

「買い取りたい量と金額はこんな感じだ」

モニカとルイスが要点を伝えると、さらに村人たちが騒ついた。


「もちろん反対する者はいないだろう?」

「ああ!」

「当然だ!」


 全員一致で決まり、村全体でキンセンカの花を摘んで乾かした。

ドライフルーツや干物を作るためのネットを販売することになり、軟膏の買い取り金額と相殺することになった。



 今日は干すところまで出来たので続きは明日。野営している広場に戻ってから結界に戻った。

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