第166話 野生のサトウキビ

 フリーダさんを見送り、残った村長さんにお茶を出すと村長さんがため息をついた。


「あなたたちは親切な商人ですな」


 なんでも本土から離れた村なので、以前は悪い商人がやってきて粗悪品を高く売りつけることが少なくなかったらしい。


「後で騙されたと思っても商人は本土へ帰った後で、こちらは追うことも出来ず訴えることも出来ない。いつも泣き寝入りですよ」

 今は悪徳商人は詐欺のような商売をすると自動的に犯罪者として転移させられるから被害はないとのことだった。


「しかもデモ販売!あれはいいですな。自分の目と舌で確かめてから購入できる」


 デモ販売は初めての経験だったらしい。楽しい経験だったとご機嫌だ。


「それで仕入れの相談とは?恥ずかしながら漁で自給自足している特に何もない島なのですが…」


「何もない?サトウキビがあるじゃないか?」

「ここにくる途中、サトウキビだらけだったよ。栽培しているんでしょう?」

 ルイスとウィルコのすっとぼけた演技がわざとらしい。



「………サトウキビとは?」


村長さんはサトウキビを知らなかった。


「ハチミツの代用品になる甘い調味料、砂糖の原料になる植物だ、この島にはたくさん生えているだろう?」

「ハハハハハ!まさかこの島でそんな高級品が採れるわけがないでしょう。何かとお間違えですよ」



── どうしよう信じてもらえない。



 笑って取り合ってくれない村長さんをなんとか連れ出して港と村を繋ぐ道にやってきた。この道の両側に野生のサトウキビが広がっている。

 すでにルイスもモニカもウィルコも疲労困憊だ。ここまで信じてもらえないとは思わなかった。



「ここに広がっているのはサトウキビだ」

「いやいや、これはバガスという雑草ですよ。刈っても刈っても生えてくる忌々しい雑草です」


 サトウキビは全然違う名前で呼ばれていた。しかも穏やかな村長さんの背後にドロドロした恨みが見える…。


「この忌々しいバガスを刈るのは子供の仕事でね、私も子供の頃にうんざりするほど刈り取ったものですよ」

 村長さんからフンッて音が聞こえてきた。



「少し刈ってみても良い?」

「大変だぞう?出来るかな」

私がお願いすると、やってみろと言う。



……硬いな。


ウィルコが刈ってくれた。

さらに手際良く20cmくらいに揃えて配ってくれた。


「いただきまーす」

「ちょ!やめなさい」

私が勢いよく齧りつくと村長さんが止めようとする。


「甘ーい!」

「本当ね」

「僕は好きだな」

「甘いものを食べたらカレンは歯を磨くんだぞ」


 サトウキビを齧って喜ぶ私たちを見て目を丸くする村長さん。


「村長さんもどうぞ」

ウィルコが村長さんのために刈り取って渡すと村長さんも恐る恐るサトウキビを齧って味わう。


「甘い…」

呆然とする村長さんを見て思わず笑ってしまう。


「村に戻って相談しようか」

今度は村長さんも否定しなかった。

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