第146話 大晦日

 大掃除の必要はないけど、ちょっとだけいつもより丁寧に掃除した。


「カレン、掃除はもういいの?」

「うん!モニカもありがとう。みんなでやると早いね」


「キッチンはけっこう汚れてたな」

「唐揚げとか豚カツとか揚げ物をすると油はねで汚れるんだよ」

「それなら俺が頑張らないとな!」

「ありがとルイス」

「お風呂もバッチリだよ」

「ありがとウィルコ」

 私も頑張ったけど手が届かない場所は全部やってもらった。子供の身体は不便だ。


 大掃除が終わったので年越し蕎麦の準備をしよう。昨日のうちに天ぷらを揚げておいて良かった、掃除したてで揚げものをしたくないもんね。それもこれも時間経過なしのアイテムボックスのおかげだよ、ありがたや…。



「今日の夕飯はお蕎麦だっけ?」

「うん日本の年越し蕎麦!」

「日本の習慣だっけ?」

「そう、お蕎麦は他の麺類よりも切れやすいから一年の災厄を断ち切るという意味で、大晦日の晩に食べるんだよ」

「そうなんだ、普通の日にも食べたいけどね」

「お蕎麦って美味しいよね」



 今日はインターネット通販で美味しいお蕎麦を取り寄せた。温かい天ぷらそばだけでなく鴨南蛮そばも作るよ。


「温めるだけなんだ、楽だね」

「掃除で疲れてると思ったから簡単に美味しいものを食べたいと思って」

「いいね!」



 あっという間に出来たのでテーブルに並べる。

「天ぷらそばと鴨南蛮そば、天ぷらはたくさん揚げたからどんどん食べてね」

「鴨はいいな!」

「私たちの大好物よ!」

ルイスとモニカが大喜びだ。

「野菜の天ぷらの他にかしわ天もあるからね」

 ルイスとモニカ向けにかしわ天も多めに揚げた。天ぷらそばにかしわ天を追加して美味しそうに食べている。


「あと少し場所を空けて」

テーブルにドン!と馬刺しを出した。

「ルイスとモニカには肉っけが足りないと思って馬刺しを買ったよ」


 柔らかくて肉のうまみを強く感じられる赤身、ゼラチン質でとろけるタテガミ、ぷるぷるでコリコリの生レバーだ。

「専用のタレがついてきたよ、薬味もあるから好みで食べてね」


 生肉が大好きなルイスとモニカが感動で震えている。

「なんて美味しそうなの…」

「姉ちゃん、食ってみようぜ」


ルイスとモニカのもぐもぐタイム。


「美味い!」

「とろけるわ…」

気に入ったみたい、良かった。


「お蕎麦も伸びないうちに食べてね」

焦った様子で鴨南蛮を啜るルイスとモニカ。


 ウィルコは天ぷらそばから食べることにしたみたい。私も天ぷらそばをいただこう。


ずぞぞぞぞー


── うん美味しい!


 小さな器で盛り付けたから鴨南蛮と天ぷらそば、両方いけるな。子供の身体は食べる量の調節が難しいよ。



「鴨南蛮て美味しいね!」

「ウィルコは鴨が気に入った?天ぷらもサクッと揚がってて美味しくできたね」


「馬刺しも美味しいわ」

「ああ馬刺しは特別な日のご馳走にしよう」

ルイスとモニカも嬉しそう、いい大晦日だな。



「今日は日付が変わるまで起きてるから!」いつも子供の身体に引きずられて夜遅くまで起きていられない私が夜更かし宣言をする。


 今日は夜更かしして、みんなで映画を観るのだ。観るのは以前ウィルコがお気に入りだと言った『Meet the Parents』だ。

 ロバート・デ・ニーロ主演のコメディ映画で、娘を溺愛する元CIA職員で心理尋問官を務めていた父親と、その娘と結婚したい青年とのバトルがコミカルに描かれた楽しい映画なのだ。

 みんなで笑える映画で年越しって、ちょうどいいよね。



 ベン・スティラー演じるグレッグが、恋人パムとの結婚を許してもらうため彼女の両親に会いに行くものの、不運と失敗が重なってホップ、ステップ、ジャンプ!で地雷を踏みまくる。

 パムの父親のロバート・デ・ニーロが元CIAでヤバイ。ベンがやらかすたびにヤベエ!ってなる。冷や冷やする場面になる度にモニカと抱き合った。最後はもちろん丸くおさまる。


「ハラハラするお話だったわね」

「私は2回目なんだけど落ち着いて観ていられ無かったよ」

「僕も〜、デニーロの父親振りがあまりにも憎たらしくてたまらなかったよ」


ダン!


 私とモニカとウィルコで映画の感想を言い合ってキャッキャしていたらルイスがマグカップを強めに置いた。


「ルイス?」

「どうしたの?」


「あいつはダメだ」

「ルイス?」


ルイスがカレンを抱き上げてスリスリした。


「もしもカレンが、あんな男を連れてきたら俺がカレンの目を覚ましてやるからな!」


 いや…現実離れした設定のコメディ映画に本気になられても…。それにまさかルイスがデ・ニーロ目線で観ていたなんて…。


「俺に任せろ」


「…うん」


涙目で訴えるルイスを茶化したり出来なかった。

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