第151話 真冬のブレスト村
引き続き北部の村を回っている。
どの村も今年は冬支度をしっかり出来たというが、冬の行商はありがたいと言って保存食や家畜の飼料を買ってくれる。
次の村の近くに転移してから馬車で向かう。今日は御者席にウィルコと2人で座っている。
「次はブレスト村だっけ?」
「うん、久しぶりだよね」
初めて訪れた時のブレスト村は食中毒で村中が騒然としていた。状況が落ち着いた頃にオリガさんとヴァジムさんの家で家庭料理をご馳走になったのだ。
「2度目の訪問ではウィルコが村の若い人たちに料理を教えたんだよね」
「そうそう!若い男の子たち。後片付けも出来る男に成長しているみたいだよ」
「それは凄いね!」
当たり前に家事を担当する男子ってモテちゃうよ。担当して当たり前なんだけどね。
思えば日本の男は酷かった。お付き合いすると自分は何もしないのが当然だと思っている男は多い。私はそういう可愛い女じゃなかったけどアメリカ人の彼と付き合い始めた頃に彼の洗濯ものを取り込んで畳もうとしたら驚かれて『そんなことはしてはいけない』と、たしなめられた。
可愛いくない女と評判の私が『まあ、これくらいは…』って思うレベルのことをしただけなのに『あなたは自分をもっと大切にして。僕はあなたのことが大切だからメイドのように振る舞って欲しくない』って言われて驚いたし嬉しかったんだよね。人として人間として尊重されていると感じられたし、自分を誇らしいと思えた。親だってそんなふうに言ってくれなかったもの。
まあ価値観の違いで別れちゃったんですけど!『これくらいはしてもいいの?だめなの?』って、いちいち考えるのが面倒になったのだ。残念ながら私はカビの生えた考え方から抜け出せなかったんだよね…。
「ブレスト村の人たちは村単位で改善したんだよ。村人全員が家事を体験して、話し合って、これは男性メインの仕事にするとか、これは当番制にするとか決めていたよ」
「それはいいね!」
方針はあくまで方針、強制はしない。家庭ごとにやり方があるべきだってことになったらしい。素晴らしく柔軟な考え方だな。この考え方が広まるように、今度じっくりウィルコと相談しよう。
「そろそろ村の入口が見えてきたよ」
転移で村の近くに馬車ごと移動してからカッポカッポと進んできた。
「ウィルコ君!?久しぶり!」
「来てくれて嬉しいよ!行商?」
超歓迎された。ウィルコが。
ウィルコの背後で空気と化した私とモニカとルイス。
「ごめんごめん、入村だよね」
「どうぞ入って」
顔パスだった。
さっそく広場で販売を始めると村人が集まってきて、いろいろ買ってくれた。やはり冬の間は物資が不足して辛いらしい。ブレスト村では豆類がよく売れた。
「もやしを栽培しているの?」
「室内で、しかも数日で出来るからいいよね」
「なんとか春まで備蓄をもたせないとと思っていたから助かるよ」
ブレスト村は麦などが豊富に収穫できて近くの村に売るほどだったと聞いたが冬の野菜不足は課題だったようだ。
前回よりも男性が積極的に買い物してくれた。ウィルコの料理教室をきっかけに家事をする男性が増えたらしい。
奥さんと一緒に料理して洗い物をして…家庭…というか村全体がいい雰囲気なんだって。甘酸っぱいな!
どこの村も思った以上に野菜不足だった。
今度はプランターで栽培出来る小カブや小松菜の種を持ってこよう。
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