第35話 パオロと鍋

 翌朝は夕飯のスープの残りで朝食にして出発した。


 旅は順調だった。ステータス制度の導入から盗賊も出なくなったので安心だ。順調すぎて暇なのでモニカと一緒に転移で結界に帰った。荷台の中に入ってしまえば転移してもバレない。


 戻って何をしたかというと夕飯の下準備だ。私は魚を食べたいがルイスとモニカは肉を食べさせないと怖いからね。今日はダッチオーブンで煮込み料理にしなきゃいけないので牛タンシチューの予定だ。


 インターネット通販で買った缶のドミグラスソースを小瓶に移しておく。ドミグラスソースの作り方は秘伝てことで内緒にする。まだ正式に世に出せないものがたくさんあるのだ。


「作り方は覚えたわ」

 プロのレシピ動画を見せたらモニカは一発で覚えた。さすが神だ。

「モニカはすごいね!あとはパンを焼いて、パプリカと玉ねぎといんげんとマッシュルームで具沢山のオープンオムレツとキャロットラペとナポリタンでいいかな」

 肉料理や卵料理と見せかけてシチューにもオムレツにも野菜があるしいいよね。


「食べ応えがありそうな献立ね、いいんじゃないかしら?」

野菜が多いことに気付いていないな、チョロい。

「ドミグラスソース以外は野営地で準備しないと不自然だよね」

「そうね、そろそろ戻りましょうか」


 モニカと一緒に馬車に戻った。

 ちなみに朝はいつも前日の夕飯の残りで、昼は焚き火で焼いた肉や魚とパンと簡単なスープで済ませている。焚き火で焼いたお肉ってキャンプっぽくて楽しいから好き。


「戻ったか」

「そろそろ野営地だよ」

 転移で馬車に戻ると御者を務めるルイスとウィルコが声を掛けてくる。

「今日の夕飯はタンシチューだよ。ダッチオーブンでトロトロに煮込むと美味しいよ!」

「それは楽しみだな」

ルイスの機嫌が急上昇だ。


 野営地に着いたら馬の世話だ。私たちは荷物を載せていないけど二頭とも頑張ってくれてるよね。

 馬たちが満足したら人間のご飯だ。パオロたちも馬の世話が終わったようなので呼びに行く。

「今日のメインはタンシチューよ」

動画で予習したモニカを中心に準備だ。


「シチューとオムレツとサラダとナポリタンに使う野菜をまとめて準備しましょう。じゃがいも、玉ねぎ、にんじん、パプリカ、いんげん、マッシュルーム、ピーマンを洗ってカットしましょう」

みんなで手分けした、全員でやると早いね!


「まずは下茹でから。ダッチオーブンに牛タンを入れて、浸かる程度の水を注いで茹でる。ザルにあげて流水で洗ったら水気を切ってカットする。下茹でに使ったダッチオーブンを洗って、カットした牛タン、水と秘伝のソース(デミグラスソース)にトマトソース、塩、ローリエを入れたらフタの上に焼けた炭を乗せて上下から加熱して煮込む」

── 本当はウースターソースや砂糖や胡椒も入れたいけど我慢…。


「その間にキャロットラペを作るわ。クエンカで作ってもらったピーラーでシャシャッとして塩とレモン汁とオリーブオイルで和えたら完成」

これはあっという間だね。


「次はパンを焼きましょう」

「捏ねるのは任せろ」

 ルイスが豪快にパン種を捏ねて整形する。小さくたくさん作った。明日の朝の分まで考えて整形したようだ。


「そろそろシチューを見てみましょう」

 モニカがシチューを煮込んでいる鍋のフタを開けると濃厚な香りが漂う。

「だいぶ柔らかくなってるわね、カットしておいたじゃがいも、にんじん、玉ねぎを入れてフタをして…焼けた炭をフタに乗せてさらに煮込む」

これは大成功の予感!さすがですモニカさん!


「パンを焼きましょう、これもダッチオーブンで焼くわよ」

 ダッチオーブンで上からも加熱するから美味しいパンが出来るよ!


「その間にオープンオムレツとナポリタンを作るわ。野菜をオリーブオイルと塩で炒めて全体に火が通ったら卵を落として全体をかき混ぜて少し待てば完成。ウィルコ、そっちはどう?」

「ナポリタンも完成だよ」

「ルイス?」

「パンもいい具合に焼けたぞ」

キャンプ用の大きなテーブルにシチュー鍋とナポリタンの鍋とオムレツのフライパンと籠に盛ったパンとキャロットラペを並べる。


「美味しそうだね!」

「ああさっそく食べよう」

キャロットラペとオムレツとナポリタンとパンを盛り付けたプレートをウィルコが配る。

「私はナポリタンとパン両方は食べきれないよ」

「ナポリタンを減らそう、パンは小さいから大丈夫か?」

「うん」

ルイスが私のプレートから自分のプレートに引き取ってくれる。


「じゃあタンシチューも配るわよ」

お椀によそったタンシチューをパオロ達に配る。私には少なめ。

「全員に行き渡ったわね」

「ああ」


「いただきまーす!」

まずはシチューからいく。スプーンで切れるくらいタンが柔らかい。調味料が足りないけど充分美味しい。

「柔らかいね!美味しいよ」


「これは凄い」

「パンの焼き色もしっかりついてる」

「香ばしいのにふっくらと柔らかいパンだ」

パオロとステファンとマテオが驚いている。


「ナポリタンも美味しいよ!食べてみて」

促すとフォークにナポリタンを絡める。


「美味い。」

「酸味が少しと…旨味が凄いな」

「ケチャップというサンタンデールの調味料だ。最近王都でも流通している」

「オムレツにケチャップをつけても美味しいよ」

「…本当だ」

「卵に合う…」


「ナポリタンのお代わりは?」

「是非!」

「シチューもどうぞ」

「お願いします」

パオロとステファンとマテオがナポリタンとシチューに夢中になった。


「上からも加熱するダッチオーブンの凄さは良く分かりました。シチューのタンが柔らかくてパンは香ばしい…凄い鍋ですね」

「もしすぐに欲しいなら卸せる。数に限りはあるがな」

「パオロさんたちでクエンカに仕入れに行けば良いよ!ついでにサンタンデールに寄ってケチャップも仕入れなよ」


「食事をいただいた上に、そんな貴重な情報をいただいてしまっては…」

「俺たちは鍋とケチャップで充分儲けた」

「それに季節が暖かくなったら北に行く予定なの」

私もウンウンと肯く。


「それでな、クエンカにはコシードという超絶に美味い料理がある。クエンカに行ったら食った方が良い」


 ルイスとモニカが肉肉しい煮込み料理について熱弁を奮い始めたので馬車の荷台から結界に戻って風呂に入って寝た。

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