第170話 鍋とケチャップが売れた

 2週間が過ぎ、私たちは再びサン・ポル島を訪ねた。


「おお、待っていましたぞ!」

「たくさん作ったぞ」

「さあ、見てくれ!」


 村人たちに囲まれるようにして黒糖を加工している小屋に案内された。


「買取を頼みたいのはこれだ」


 村長さんの前のテーブルには黒糖の入った大きな壺が20ほど積まれていた。


「ずいぶんたくさん作ってくれたのね!」

「食べて見てくれ」

 村長さんに勧められるまま小さなカケラを食べて品質を確かめる。


「不純物がなくて舌触りも滑らかね」

「黒糖のコクが感じられるな」

「さっそく買取りしよう!」



 約束通りのレートで買取を完了してウィルコがニコニコだ、良かったね。


「相談なんだが…」

「村長さん?」

「ジャムは文句なしに激ウマなんだが他にも食べ方を知らないか?」


 村長さんと村人たちが期待に満ちた目で見てくる…プレッシャー。

ルイスとモニカとウィルコと4人で固まって相談するが、醤油を使ったレシピは駄目だしスイーツ系も乳製品が無いから難しいな……マーマレードを黒糖オレンジジャムで代用出来ないかな。お肉のマーマレード焼きはどうかな。


「トマトケチャップ、マーマレード、粒マスタードでお肉を焼こうよ」

「その組み合わせは間違いなく美味しいわね」

「甘辛い肉は美味いからな!」

「確かスペアリブがあったね。僕、馬車からお肉を取ってくるよ」

 私もウィルコについて馬車に戻った。ウィルコがお肉で私がケチャップを持って村人たちのところに戻るとルイスとモニカが腕まくりをして鍋や竈門の支度をしていた。



 ダッチオーブンでスペアリブを焼いて全体に焼き目をつける。肉から出る余分な脂は捨てる。

 美味しそうな焼き色が付いたら、マーマレード、ケチャップ、粒マスタード水を入れて混ぜ合わせます。煮えてきたら蓋をして弱火で煮込む。ダッチオーブンで煮込むから柔らかくなるよ。


「そろそろ良いんじゃないか?」

 ルイスがダッチオーブンの蓋を取ると湯気と美味しそうな匂いが広がる。


「…この匂いはたまらないな」

「ああ、腹が減るな」


ルイスがトングで肉を掴む。

「いいんじゃないか、味見を頼む」

 みんなでスペアリブのオレンジジャム煮込みを配る。


「美味い!」

「すっごく柔らかい…」

「美味しい!」


村人たちの反応も上々だ。


「この前のデモ販売でも使ってみせたけど、このお鍋は特別なのよ」

「蓋が密閉されるから蒸気を逃がさずに調理できて、煮込み料理がトロトロでホロホロに美味しく仕上がるんだ」

「蓋の上に炭を置いて上からも熱を加えるからパンも美味しく焼けるんだよ」


 村人たちのリクエストでパンも焼いた。


「焼き立てのパンに黒糖オレンジジャムの組み合わせは最高だな!」



 黒糖を仕入れに行ったらダッチオーブンとケチャップが売れた。これからの交易が楽しみになる取り引きだった。

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