第19話 シモンとの話し合い
── 変態は変態だった。
サンタンデールに滞在する残りの期間、私は自分のエリアに引きこもったがサンタンデール滞在最終日にシモンさんが来たのでルイスに抱っこされて渋々共通エリアに出てきた。絵にかいたような不貞腐れた子供の態度と顔で。
ロリコン神が床に正座しており、その横に事務員のシモン。以前も見た光景だ。
「カレンさん、この度は当方の愚かで未熟な神が大変申し訳ございません」
シモンさんの腰が直角に折れた。
ルイスに下ろしてもらう。
「…いまの私の実績って、どのくらいですか?」
「ビン詰めの保存方法を教えたことと、トマトの廃棄率を下げたこと、トマトの生産量アップに貢献したことで食糧自給率が30%から33%にアップしました。ビン詰めの保存方法が広まればさらに数値は上がるでしょうが現在はこんなものです。
治安指数12%が78%に大幅アップ、倫理観の指数は18%から24%、教会で義務教育を施す取り組みで、教育指数が42%から55%にアップ、合計で86%ですね。
倫理観はまだ育っていません。治安は強制的に改善させましたが人間が自分で考えて同じレベルの治安を達成できるようになるには、まだ時間がかかるでしょう」
「まだ100%じゃないの…」
落胆を隠せない。
「もし今すぐ成仏したいって言ったら、どのくらい希望を叶えてもらえるの?」
「カレンさんのお気持ちはわかりますが、まだ契約を達成したと言えない状態ですので何も希望を反映させることができませんし、むしろ契約不履行になります。悪いのはこの愚か者なのですが…」
じわあ…。
小さなカレンの目に涙があふれた。
「カレンさんがウィルコのことを泣くほど嫌っている理由も理解しておりますが、こればかりは私にもどうすることもできないのです」
カレンが小さな手で何度も涙をぬぐう。
子供のころから満員電車で通学していたカレンは数えきれない回数、痴漢の被害にあってきた。中高は通学の電車で毎朝触られた、酷い時は同時に左右と後ろから触られたりした。高校卒業後は二度と同じ路線に乗らないと決めて大学入試も頑張った。
痴漢くらい…という人間は意外と多いが、そんな軽い犯罪じゃない。シモンはカレンが変態を憎む気持ちを理解できない側の人間なのだろう。いや人間じゃなくて神か、どっちでもいいや。
「カレンさんのお気持ちを理解していないわけではないのです。しかし神々の契約は重く、何よりも優先されてしまうのです」
「でも…こんな変態だって言ってなかったもん…ひっぐ」
「申し訳ございません。今できる対策について相談しましょう」
それしかないのは分かっているが涙があふれて止められない。
オロオロな狼たちがカレンの周りをぐるぐる回る。
「ウィルコがカレンさんに物理的に近寄れないようにします」
「物理的に?」
「そうです」
「どのくらい?」
「カレンさんを中心に半径1.2m以内への侵入を禁止します」
ロリコン神が手を伸ばしてもカレンに触れることができない距離だ。
「一緒に行動する以上、これより距離を伸ばすと不自然な場面も出てくるでしょうから、とりあえずこれで様子を見ましょう」
「……うん」
仕方ない、ここで契約破棄したら来世がもっと悪い条件になってしまう。あれよりも惨めな人生は真っ平だ。もう少し頑張ればアメリカのハイスクールでスクールカースト上位のキラキラ女子にだってなれるのだ。
「ありがとうシモンさん、よかったら一緒に夕飯を食べていってください」
「ご迷惑をおかけした上に食事までご馳走になってしまうのは申し訳ないのですが、この愚か者の様子を見るためにお言葉に甘えさせてください」
「今日はトンカツだよ」
狼たちが尻尾を振って喜びを表す。
「みんな手伝ってね」
ルイスとモニカが人型に戻る。
ウィルコとの距離感を掴めずにいたらルイスとモニカがガンガン攻めた。
「ロリコンは手を洗いなさい。変態だから念入りに洗って消毒もするのよ」
「手の消毒が終わったらロリコンはキャベツの千切りだ」
「付け合わせはポテトサラダよ、ロリコンはジャガイモを洗って茹でなさい」
「それが終わったらロリコンはレモンを串切りにするんだ」
名前がロリコンに代わっているし立場が弟子から奴隷にクラスチェンジしてた。攻めすぎだよ、私の出る幕なかった。
「みんなたくさん食べるから色んな部位を揚げるよ、ヒレとロースとリブロースとミルフィーユカツね」
ルイスとモニカがますます張りきってウィルコを働かせる。
お味噌汁をよそって小鉢はお漬物とポテトサラダ、メインのお皿には各部位のトンカツと千切りキャベツにトマトときゅうり。とんかつソースとからしでいただきます!
「美味しいですねえ」
「うん、みんなで協力できるようになって、ご飯の時間が楽しくなってきたところだったんだけど…」
シモンの感想にしょんぼりと答えるカレン。
ロリコン神のおかげで振り出しに戻ってしまった。
この落ち込む姿は本心でもあるし演出でもある。この機会を利用して目いっぱい同情を引き出すつもりだ。とりあえずルイスとモニカが一緒だし物理的に距離も出来たから何とかやっていけるだろう。
申し訳なさそうな表情のシモンさんが申し訳なさそうに帰っていった。
内心、しめしめと思ったのは内緒だ。
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