第216話 さらに東へ

 羊肉をお腹いっぱい食べた翌日、改めて東へ向かっている。



「ルスランさんやジャブライルさんたちの勢力範囲は資源が豊富なんだけど、まだその資源を活かせる文化レベルじゃないんだよね」

「今の放牧の生活が幸せそうだったじゃないか。家族が仲良くて飯が美味くて最高だ」

「…そうだね、無理して発展させる必要はないよね」

「ああ、いずれ自然とそうなるさ」

「そうだね。ルスランさんやジャブライルさんたちの生活を乱さないように無理な手出しは控えるよ」


 ウィルコとルイスの意見に私もモニカも賛成だ。



「遊牧民の勢力範囲が続くから、かなりの距離をスキップして香辛料が豊富な土地に転移するよ」

 ウィルコの力で一瞬で転移した。


「ここは標高が高いから涼しいんだけど麓の方はぐっと暑くなるんだ」

「これよりだいぶ暑いとなると俺たちにはきついな」

「そうね。今くらいが丁度いいわ」

 ルイスとモニカに無理させないようにウィルコも気をつかっているみたい。ルイスは病み上がりだしね。


「少し進むと野生のカルダモンシードが自生している村があるよ」

「カレー粉の原料に欠かせないスパイスね!」

モニカが生き生きしてきた。


 カルダモンはインド料理のビリヤニに必須だし、ピクルスを漬ける時に使うと美味しくなるし、いろんな肉料理にも使われるメジャーな香辛料だ。


「標高800mから1,200mの環境で天候に生産量が左右される貴重なスパイスだよ。今後も安定供給は難しそうだね」

「高級品になりそうね」

 モニカの元気が萎んでしまった。大量に使うものじゃ無いしカツカレーは作れると思うから元気出して。


 地球でもカルダモンは世界で3番目に高価なスパイスって言われていたもんね。ちなみにカルダモンより高価なスパイスはサフランとバニラだって。サフランを安く買いたくて中東やインドの食料品専門店を回ったことがあるけど、そういったお店でもサフランは高かったよ。



「カルダモンを栽培しているシャルワル村が見えてきたよ」


 御者席にはウィルコと私が座っている。

門番さんがこっちを見てる。子供ですよ、怪しい者じゃありませんよとアピールしつつ手を振ると門番さんも振り返してくれた。今回もすんなりいきそうだ。


 村の入り口で馬車を止める。

「迷子だぞ」

「かわいそうに」

「こんな奥地に迷い込んで…心細かっただろう?」

「もう大丈夫だぞ!」

村人たちが集まってきたが誤解がある。


「迷子じゃないよ!」

「大人もいるぞ」

ルイスとモニカが顔を出す。


「大人がいても迷子になったのか…」

「迷っていないし!」

「強がらなくてもいいぞ」

「もう安心していいんだぞ」


信じてもらえなかった…。

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