第16話 ケチャップ

 焼肉のおかげで昨日という日を無事に終われた。肉が不足した時のルイスとモニカは怖過ぎる。


 今日の朝ご飯は市場で食べ歩きをした。

市場ではオレンジを山ほど積んでいる屋台があちこちにあって、注文するとその場で絞ってジュースにしてくれる。甘酸っぱくて美味しい。

 この他にパパイヤとマンゴーとパイナップルも食べてフルーツでお腹いっぱい。ルイスとモニカには合わないみたいだけど私はサンタンデール大好きかも。

 そんなルイスとモニカは屋台の串焼きをもりもり食べてた。ウィルコは串焼き1本にオレンジジュース。1番バランス良いかも。


「食った食った、やっぱり肉だよな」

「焼きたての肉は美味しいわね、今日は何をするんだったかしら」

「宿のキッチンを借りてケチャップを作るよ!」


 そう、この世界にはケチャップがなかった。ケチャップが出来たらナポリタンが食べられるようになる!


「昨日市場で買った完熟トマトを洗って皮に切れ目を入れて熱湯にくぐらせてから冷水にとるとツルッと皮が剥けます」

量があるのでみんなでやる。

「トマトはざく切り、玉ねぎとニンニクは摺り下ろします」

ルイスとモニカとウィルコが頑張った。


「お鍋にトマトと摺り下ろした玉ねぎとニンニク、塩とローリエを入れて煮込む。トマトを潰しながら弱火でコトコトね」

 交代で1時間くらい混ぜたらトロッとしてきた。味見して塩で整えたら完成だ。煮沸したビンに入れて完成。


「お昼はナポリタンが食べたい!」

子供っぽく無邪気に言ってみた。

 ルイスとモニカが宿に頼んでくれて引き続きキッチンを使わせてもらった。宿の皆さんの分も作るよ!

 この世界にはパスタがある。パンもあるし小麦文化なんだよね。ちなみにお米はまだ発見されていないのでオムライスは作れない。食べたくなったら結界で作るしかない。


「ウィルコ、パスタを茹でてね。私たちと宿の皆さんの分、10人前!」

 ウィルコはパスタを美味しく茹でることも出来るようになっている。


 モニカがピーマンと玉ねぎと腸詰を切る。腸詰の量が多くて野菜が少ないけど怖いから文句は言わない。


 フライパンに油を入れて強火で熱し、玉ねぎと腸詰を炒める。玉ねぎに火が通ったらピーマンを入れてさらに炒める。

 ピーマンの緑が鮮やかになったら、フライパンのスペースを半分あけて、ケチャップを1ビン流し込んでケチャップの水分を飛ばす。

 ケチャップが煮立ってきたら具材と混ぜ合わせて、ゆで上がったパスタとゆで汁を少し加えて全体を混ぜ合わせる。塩で味を整えたら完成。

 隣のコンロでルイスが作った半熟の目玉焼きとトッピングのベーコンを乗せたら完璧だ。テーブルに運んで宿の皆さんと一緒にいただく。


「いただきまーす!」

 最後に味を整える時に味見したモニカが嬉しそうだったから絶対に美味しいはず!

…うん、美味しい。まだ発見されていないからケチャップにもナポリタンにも胡椒を使えなかったけど腸詰やトマトの旨味が出てる。

半熟の目玉焼きの黄身を潰して絡めて…美味しい!


「これは美味しいですね!」

「何でしたか、ケチャップ?」

宿の皆さんにも好評だ。


「そう、オムレツにかけても美味しい調味料だよ!サンタンデールのトマトで作ると美味しいね、ここで作ってくれたらいいのに!」

「午後はサンタンデールの商業組合に頼みに行こう、ここの特産になったら定期的に仕入れて王都で売れる」


商業組合には宿の主のリカルドさんが同行してくれることになった。



「それで私たちもご馳走になったんだが、これが実に美味いんだよ!」

商業組合に来たら私たちよりもリカルドさんがノリノリで説明してくれる。宿の新しい名物料理にするって張り切ってる。


「煮沸消毒したビンに詰めれば数ヶ月は持つから王都どころか、もっと遠くの街にも売れる。これは今日作った残りだ」

 そう言ってルイスがケチャップの入ったビンを並べる。


「それは凄いことですよ。この地域はトマト以外の作物が獲れにくいんです。なのでトマトばかり作っていますが生鮮食品なので日持ちしないため出荷出来る量に限界があります」

 商業組合のラウルさんが悲しそうに話す。

出荷可能な地域で食べきれる量しか作っていないってことだよね。それ以上作っても売れないし値崩れしちゃう。


「どの農家もトマトならまだまだ作れるんですが作ったところで無駄にしてしまうんです。でも数ヶ月も持つ加工品なら…!」

「作り方は私たちが教えますので、作ってみませんか?」

「モニカさん、まずはナポリタンを食べてもらおうじゃないか!あれは美味い」


 リカルドさんの説得により商業組合のキッチンを借りてモニカとルイスが調理する。リカルドさんが側で見てる。簡単だからリカルドさんならすぐに覚えて美味しく作れるようになるだろう。

 私とウィルコは邪魔にならないよう離れて待っている。


「お腹が空く匂い…」

「これはたまらないわ…」

「お昼を食べたばかりなのに…」

商業組合のみなさんが集まって来た。


 大皿にドーンと山盛り盛りつけて職員のみなさんに小皿とフォークを配る。

「大きく口を開けてパスタと具材を一緒に食べると実に美味いんだ。お上品に食べると損だぞ!」

 匂いに釣られて集まって来た職員のみなさんがリカルドさんのアドバイス通り思いっきり食べると、驚いた顔、嬉しい顔、美味しく顔が並んだ。


「目玉焼きの黄身を絡めても美味いぞ」

さっそく目玉焼きと一緒に頬張るみなさん、稲妻が落ちたような顔になった。


「お昼ご飯を2回も食べちゃった…」

「俺はまだ食える」

「私も」

「俺は晩飯もこれを食べたい」

 ナポリタンとケチャップは受け入れられたと思って良いよね。もともとトマトの産地だからトマトが苦手な人は少なそう。


「今日のケチャップは基本のケチャップだよ。生産者ごとにハーブを入れたり工夫して差別化出来たら商人が取り合いになるくらい売れると思う!辛くして旨辛ケチャップにしても美味しいよね!」

「ああカレンはオムレツに掛けるのも好きだったな」

「うん!卵の黄色に真っ赤なケチャップが綺麗なの」

 無邪気を装う40代、辛い。

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