第25話 王都に帰って試食会

 マリアさんやガンホーさんたちに見送られてクエンカを旅立った。


 残りの鍋やメスティンが出来上がる頃にまた立ち寄る約束をしているので旅立ちはあっさりだ。

 王都に戻る前にもう一度サンタンデールに寄ってケチャップを追加で仕入れた。トマト農家ごとに酸味が強めとか水分が少なめで濃厚とか、早くも特色が出てきて面白い。フェルナンドさんブランドとかペネロペさんブランドとかケチャップのブランド化が出来そうだね。そうなったらビンのラベルにもこだわりたい。


 いったん王都で売り出して、他の商人がサンタンデールやクエンカに仕入れに行くよう仕向けてから再び仕入れの旅に出る予定だ。

仕入れの旅という名目で、実際には新しいものを広める旅なんだけどね。


「エレナさんに会いたいな」

 エレナさんは王都のお隣さんだ。私たちが仕入れの旅に出る時に見送ってくれた。無事な姿を見せたら喜んでくれるだろう。


 まだ暫くの間、王都は寒い季節なのでこの後もまた南へ仕入れを装った生活レベル向上、文化レベル向上の旅に出る。その後また王都に戻って、暑い季節は北へ旅立つ予定だ。世界各地に眠っているまだ知られていない美味しいものに出会うのが楽しみだなあ。どこに何があるのかは分かっているんだよ。



「まあ、このダッチオーブンというのは凄いわね!」

 王都に戻り、エレナさんをはじめとするご近所さんを招待してダッチオーブンで調理した料理をふるまった。


「フタが密閉されるから蒸気を逃がさずに調理できて、煮込み料理がトロトロでホロホロに美味しく仕上がるんだよ!」

 今回の旅で狼たちが気に入った豆とソーセージの煮込み料理のコシードや普通に王都で食べられているシチューをふるまった。


「本当にホロホロね!」

「肉が柔らかいなあ…」

「煮込む時間は、それほどかからないで、ここまで柔らかくなるのはいいわね」


 好評でした。重量感あるフタは熱や水蒸気を逃さず密閉性が優れているから煮込み料理も美味しく調理できる。ビーフシチューもスペアリブも材料を入れてあとは放っておくだけだから手間いらずでいいよね、煮込む時間はかかるけど。和食が作れたら“おでん”を仕込みたいところだよ、ダッチオーブンで煮たおでんの大根が食べたいなあ。日本酒で。


 煮込み料理を食べてる間に燻製もしました。少し高さのある網を作ってもらったので、そこに塊肉、ソーセージ、ゆで卵、魚の切り身なんかを置いてみんなの前で燻した。早くチーズを開拓したい。


「出来たぞ」

 ルイスがフタを開けると香ばしい燻製の香りが広がる。

 出来立ての燻製をエレナさんたちの前に並べてすすめる、私はソーセージをいただこうかな…カプっと皮が弾けて燻製の香りと肉の旨味が広がる。


「美味しいね」

「本当ねえ」

 エレナさんに話しかけるとエレナさんも微笑み返してくれた。


「いつも食べているものが特別な感じでいいな」

「これは酒にも合うな」

 お酒に合うのは知ってるよ、私はこの世界では飲めないから我が家では出しません。

 出来立ての燻製の美味しさは格別だよね。早くチーズを見つけて広めたいよ、出来立てチーズの燻製…トロッとして美味しいんだよね、食べたいな。


 今日ご招待した中には雑貨屋のトーマスさん夫婦がいる。

「なあ…このダッチオーブンだが、うちの得意先の居酒屋たちに声をかけてみたいんだが」

「それは嬉しいな、俺たちに出来ることはあるか?」

「今日のような試食会を開いてもらえないか、実際に使って見せて食べさせてやれば話が早い」

「それは願ってもないわ、手入れ方法も直接伝えたいし」

 うちからトーマスさんのお店に卸してトーマスさんのお店が居酒屋に販売する流れだ。


 一緒にビン入りの保存食も売り込もうと、キノコのオイル漬けやドライトマトのオイル漬けもたくさん持ち帰って、今日は漬けたオイルごと使ったパスタや炒め物やブルスケッタなどもふるまった。

「ケチャップを使ったナポリタンもいいが、野菜類が出回らなくなる冬にこのドライトマトを使った新しいメニューを出せば、その店は評判になるぞ」


 野菜が貴重な季節に食べられるのは贅沢だよね。トーマスさんがやる気です、目が$ドルや¥円の形になってます。

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