第26話 メスティンを売り込む

今日はみんなで専門店に来た。


 ここは旅人や猟師向けの装備専門店で、携帯食料の干し肉やその他の乾物、馬具や馬車のメンテナンス製品などを扱うお店だ。


売り込むのはもちろんメスティンだ。


 メスティンはお米を炊くのに便利ってイメージだけど、この世界はまだお米が発見されていないので炊飯以外の利用法で売り込む。

 スノコ状の網もセットで作ってもらったから蒸し料理もできる。この世界には肉まんもシュウマイもないけど網は焼いた食材なんかを一時的に置いたりするのにも便利なのでセットでついてくると嬉しい。


 何より本体にぴったり寄り添うように折りたためるハンドルは革命的だ。

 しかも本体の中に収納できるサイズのカップも作ってもらった。これも取っ手が本体にぴったりと寄り添うようになっている。


 一人分のスープとかの煮込み料理も出来るし、私のオススメはアヒージョだ。ニンニクを効かせてバケットが止まらないやつ。この世界のパンはハードタイプだから合うよね。 

 もちろんパスタを茹でて炒めてワンプレート料理っぽく仕上げてもいい。この四角い形は収納とか持ち運びに優れているから旅人や猟師の生活レベル向上に役立ててもらいたい。


「なるほど…これは良く考えられているな」

「長方形の形が持ち運びのポイントなんだ」

「中にカップが入るのもいいな」


 店主の反応も上々だ。

 とりあえず何セットか置いてもらえることになった。様子をみて追加で置いてもらえるだろう。


 早くお米を広めたいなあ、この世界にあることはあるけど王国の領土内じゃないんだよねえ…。メスティンでパエリア作って食べたい。



 …という訳で今日は結界でスペインご飯だ。まずはルイスとモニカ向けに肉料理から。


「チキンのチリンドロンソース煮を作るよ」

「チリンドロン?」

「タマネギ、トマト、ピーマンなどを炒め煮にしたソースのことだよ」

 野菜のソースと聞いたルイスとモニカの反応は薄い。美味しいのに…。


「骨つきチキンは筋や余分な脂を取って塩胡椒で下味。玉ねぎとニンニクはみじん切り、ピーマンとハムは短冊に、マッシュルームとオリーブは輪切りに。ダッチオーブンでチキンに焼き色をつけたら取り出して、ニンニク、玉ねぎ、ピーマン、マッシュルーム、ハムを炒めたら焼いたチキンとトマト缶、オリーブ、ローリエを入れてトロリとするまで煮込む。最後に塩胡椒で味を調えて完成」


 ルイス狼とモニカ狼の尻尾が少しだけ振られた。


「次はアルボンディガスを作るよ!」

「なんだそりゃ?」

「スペイン風肉だんごだよ」

「ほう!」

ルイス狼の目が光った。


「まずはソースを作るよ。みじん切りのニンニク、玉ねぎをじっくりと炒めたらトマト缶を加えて、白ワインとブイヨンを入れて煮こむ」

ウィルコがみじん切りを頑張ってくれた。


「次は肉だんご。牛挽肉と玉子、牛乳に浸した食パン、パセリとニンニクのみじん切り、軽くすりつぶした松の実、塩、ナツメグを加えてよくこねる。松の実が入るのがスペイン風なんだって。食べ応えあるサイズに丸めたらパン粉をつけて揚げる。付け合わせのポテトも揚げちゃおう。揚げたてを煮込んだソースに入れて煮こんで味を整えたら完成」


「チョリソとインゲン豆の煮込みも作ろうか。白いんげん豆は一晩水につけて戻しておくんだけど今日はすぐに使える缶詰を使います」

「いいわね!」

モニカ狼少しだけ尻尾が振られる。


「ダッチオーブンにインゲン豆の缶詰、くし切りの玉ねぎ、チョリソを入れて水を注ぎ、ニンニクとパセリ、ローリエを入れて火にかける。沸騰したら灰汁を取って落としぶたをして弱火で煮込む。生の豆を使った場合は2〜3時間くらい煮込むよ。豆が柔らかくなったら、パセリとニンニクを取り出す。ニンニクはすり潰して鍋に戻す」

 ここでも野菜の下ごしらえをウィルコが頑張った。


「サフランをすり鉢すり潰したら塩を加えて少量のお湯でのばして鍋に入れて煮る。オリーブオイルを入れ、さらに10~15分ほど煮込んで味をなじませる。風味づけにオリーブオイルを回しかけて完成」

 ルイス狼とモニカ狼の尻尾が元気よく振られた。


「メインはパエリア!エビの背わたを取ってアサリは砂ぬきしておく。サフランはすりつぶしてお湯を加えて色出しをしておく。ニンニクと玉ネギはみじん切りにしておくよ」


「パエリアパンでニンニクと玉ネギをじっくり炒めたら水を加えて、強めに塩・コショウ。サフラン水と米を入れて煮る。

 アサリとエビとピーマンを並べたら弱火で炊く。グツグツという音からチリチリという音に変わったら火を止めて蒸らす。レモンを添えて完成!」


 この他にトルティージャ・デ・パタタス(ジャガイモ入りのスパニッシュオムレツ)とマッシュルームのアヒージョも作ってテーブルに並べたし、奮発してインターネット通販で生ハムの原木も買った。生ハムの切り出しはルイスとモニカに任せた。


「最高の夕飯ね!」

 チリンドロンソース煮はチキン、アルボンディガスは牛肉、生ハムは豚。ルイスもモニカも嬉しそうだ。

 私はパエリアから…うん、美味しい!サフランの風味ってなんでこんなに美味しいんだろうねえ。


 トルティージャ・デ・パタタス(ジャガイモ入りのスパニッシュオムレツ)にはアリオリソース(ニンニク入りスペイン風マヨネーズ)をたっぷりつけて…美味しい。

 マッシュルームのアヒージョはオイルをバケットに吸わせて…美味しい。


「この野菜で煮たチキンも美味いな」

 骨つきチキンをワイルドに食べるルイス…骨つき肉が似合うよ。

「子羊のお肉を煮ても美味しいソースだよ」

「お肉を引き立てる名脇役ね」


「肉だんごも美味しいよ」

「松の実が入るのがスペイン風だよ、ウィルコが頑張ってくれたから美味しく出来たね」

「作り方は覚えたから次から1人で作れるよ」


 ウィルコの成長ぶりは凄いよ、この世界がいい方向に変わるといいなあ。

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