第46話 王都の衛生と神託

「もっと頻繁に状況確認をしていきましょう」


 そう言ってシモンさんは帰っていった。ちょくちょく呼んで肉を食わせろってことだと理解した。


 昨日の夜、あんなに唐揚げと豚カツを食べたのにルイスとモニカは朝から元気にローストビーフを食べている。Lawry's The Prime Ribの分厚いローストビーフにそっくりなやつ。付け合わせもそっくりに作っている。マッシュポテトにヨークシャープディングとクリームドスピナッチが山盛りだ。

 クリームドスピナッチって重いんだよね…茹でたほうれん草をバターと小麦粉で炒めて、牛乳と生クリームでとろみがつくまでのばして塩と胡椒とナツメグで味を整えて完成…材料が重い。ほんとうに元気な胃袋で羨ましい。


 私は白いご飯に焼き鮭とだし巻きとほうれん草の白和え、野菜たっぷりお味噌汁。結界だと好きな和食を食べられるのが良いわ。ちなみにウィルコはカラフルなコーンフレークを食べている。ウィルコは相変わらずアメリカかぶれなところがある。


 さて今日は現在の王都の状況を確かめておこう。ルイスとモニカとウィルコも一緒だよ。


「なんか活気があるね」

「商店の品揃えも豊かになっているようだぞ」

「街道が安全になったから流通も盛んになるわよね」

 私たちは南の地方を回ったけど他の地域を回る商人も大勢いたのだろう。上前をはねてた裏社会も強制的に解体したしね。


「エレナさんのお孫さんのジャンくんがやっているポテトフライの屋台があるよ!」

結構流行っているみたいだ。

「いくつか買っていくか」

みんなでシェアして立ち食いって美味しいよね。


「揚げたて美味しいね!」

「人気の屋台じゃないか」

ホクホクで熱々で塩が効いてて美味い。

「ありがとう、みなさんのおかげですよ」

「俺たちは昨日、王都に帰ってきたばかりなんだが、短い期間で街に活気が出てきたな」

「ずいぶん印象が変わって驚いたわ」

「新しく商売を始める人が増えたとは思います。俺もそうだし、いつか自分の店を持ちますよ!」

 希望に燃えてる若者っていいね!


 商店街や市場にも寄ったけど、どこも人とモノが増えて活気が段違いだった。経済が回り出したのを自分の目で確かめて嬉しい。ニヤニヤしちゃうよ。でも問題点もあるね。



王都をザッと回って結界に戻った。

「問題点って?」

「福祉のさらなる充実と衛生」

「?」

「まずは福祉ね、当面は王族や貴族、犯罪組織から没収した資産を原資に保障範囲を広げる。いずれは税金で回していくけどね。今までの福祉は充分じゃなかった。この世界は私が想定した以上に厳しかったってこと。

 この1ヶ月半でカバーしきれなかったところは教会がカバーしてくれてたけど本来は行政の仕事だよね。教会に甘えてちゃいけない、新たに公務員を採用して対応していくよ」


「充分ケアされていると感じたがな」

「うん充分なところと足りないところがあったと思う。孤児や老人やシングルの家庭や怪我人や病人を優先して、健康そうに見えるメンタルの病気の人をフォロー出来ていなかった。この分野もステータスに出るようにして保証の対象にする。

 目に見えない病気についても周知したいな、いつでも誰でもかかる可能性があるし、犯罪被害にあった人でメンタルの治療が必要な人は多そう」

「そうか…それはあるな」

「すぐに実行しましょう」


「もう一つ、衛生についても聞いて欲しい」

「手洗い励行とか保存食の容器の消毒とかか?」

「王都にネズミが増えてる」

「ネズミ?」

なーんだ、そんなこと?って雰囲気だけど大問題だよ!


「ネズミは収穫した穀物を食害したり、家財を損なうだけじゃないよ、深刻な病気を媒介したりするんだよ。ネズミが媒介するペストの志望率は60%から90%なんだから。

 毒餌や粘着シートや罠を開発して販売するよ。毒餌はペットが誤食する可能性があるから使う場所について指導しないと買えないようにする。毒餌や粘着シートや罠の数が充分に揃ってから、これらを神託として全土に伝えよう」


「毒餌や粘着シートや罠はどうやって販売するの?」

「こういうもので利益を出すべきじゃないと思うから公務員が役所で販売する。マイナスにならない程度に利益率は度外視で。転売屋は犯罪者として即転移。新しい都市作りがはかどるよ」


「新しい都市を作ることにこだわるのは病気が怖いからか?」

「うん。大都市は上下水道とゴミの回収やリサイクルの仕組みができていないと怖いよ」



 さっそく毒餌や粘着シート、罠の大量確保に入り、在庫が溜まり次第神託を全土に下した。


 神託で転売禁止って言ったのに!

犯罪奴隷がちょこっと増えたよ。転売屋ってどこにでも沸いてくるな。

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