第81話 トラカイ村へ

 もう元気になったと肉を食べてアピールしなければ回復したと認めてもらえないなんて…。

 和風ハンバーグを食べて回復をアピールして、今日から旅に出ることを許された。大根おろしと大葉の千切りたっぷりで美味しく出来たよ。


「トラカイ村ってどんなところ?」

「亜麻の産地だよ。文化的には地球の北欧っぽい地域と東欧っぽい地域を合わせたみたいな地域、海に近くて北にある割に海流の関係で寒さは酷くないみたい。トラカイ村の特産の亜麻でハンギング・ドライネットを作ってもらいたいんだけど、その他にも亜麻を使って名産を増やせたらいいなあ」

「そうだね、まあ実用品じゃないものは、まだまだ贅沢品だから今は無理そうだねえ」

「寒さに強いジャガイモの種芋が売れるといいな、大豆も作ってもらいたいな」

「茹でて塩を振った枝豆を食べてもらえたら大豆はいけそうだよねえ」


 私とウィルコはトラカイ村へ向かう馬車の上で打ち合わせの最中だ。ウィルコは御者を務めながら頭もフル回転している。神の成長ってすごい。性格や話し方まで変わって、もはやダメ神だった頃とは別人…別神だ。

 御者を務めるウィルコの隣で初夏の風を受けながら風景を眺めるのは気持ちがいい。



 今回は野営もせずに村に向かい、村の入り口で4人揃って門番に自己紹介した。


「他所の地域の商品か!」

「どんなものがあるんだ?」

ここの門番たちは好奇心旺盛だな。


「ここから馬車で1週間ちょっとのバンスカー村のハチミツとハニーワイン、バンスカー村のハチミツを使った特性ソース、このソースで肉を焼くと美味い」

「バンスカー村で作ってもらったトングという炭や食材を簡単に扱える便利な器具、南の地域で獲れるトマトという栄養豊富な野菜で作ったケチャップという調味料、ダッチオーブンという鍋…あとは塩とか寒さに強いジャガイモの種芋とか」

「この村で亜麻が特産でしょう?亜麻でできたリネンの仕入れもしたいわ」


「聞いただけで分からないものもあるよね、デモ販売にきてくれたら試食もあるよ」

「試食か!」

「知らない物を買う時にはいいな!」


 門番さんの案内で村長さんに挨拶して広場での寝泊まりと商売を許可された。さらにリネン製品を作ってくれる生産者を探していると伝えたらヨナスさんという名前の生産者を紹介してくれることになった。ヨナスさんは新しいことに挑戦したがりな若手の生産者らしい。


 さっそく明日の午前からデモ販売をやることになった。ヨナスさんとの顔合わせはその後だ。今日は4人でのんびりご飯を…と思ったら門番の2人がザリガニを持ってきてくれた。


「この辺りで夏によく食べるんだ。南から来たなら珍しいかと思ってね」

「塩茹でで食うと美味いんだぜ」

 ユルギスさんとマルクさんは鍋持参だ。ザリガニは北欧料理店で食べたことあるけど食用のザリガニって美味しいんだよね!私は2人のアシスタントをやろう。


「嬉しいな、僕たちは肉料理を作るよ。明日、広場でデモ販売するソースも試してみて」

 ウィルコたちはスープの風味づけにディルを使ったようだ。最近3人は地域の伝統料理に近づけるように気を使ってくれている。豚肉は塩で焼いたのとハニーケチャップで焼いたのと2種類。キノコのオイル漬けはビンから出しただけ。付け合わせにジャガイモも茹でていた。パンはいつものカンパーニュ。この辺りだと黒パンになるんだろうけど、さすがに作れなかった。


 私はユルギスさんとマルクさんの側でザリガニが茹でられるのを邪魔にならない距離で見ていた。…見るだけだった。だって茹でるだけなんだもん。


「そっかルイスさんとモニカさんはお母さんの弟妹なんだ」

「うん、ウィルコはルイスとモニカが傭兵だった頃に拾ったんだって、今は私と兄妹みたいな感じ」

「仲が良いんだね」

「うん」

そんな話をしているうちに支度が出来た。


「スープはディル風味、肉は塩焼きとハニーケチャップ焼き、付け合わせはパンでもジャガイモでも好きな物を合わせてね」

 鍋を中央に置いて好きなものを取るスタイルだとウィルコが説明する。私は絶対にザリガニ!


「カレンはザリガニ?」

「うん!」

 モニカが1匹取ってくれた。さっそく殻を割って………ぐぬぬ…結構固い、いや私が子供だからか…。

「貸してごらんなさい」

 モニカが軽々と剥いてくれた。

「ありがと」

 さっそくいただきますよ…。

「美味しい!」

「もっと食べる?」

「うん!」

モニカが追加で3匹ほど剥いてくれた。

「ありがと!」


「ザリガニって美味しいね!」

 ウィルコがキラキラしている。

「気に入ってくれて嬉しいよ」

 ユルギスさんとマルクさんが嬉しそうだ。


「カレンとウィルコは海老とか魚が好きよねえ」

「俺たちは肉を食わないと力が出ないんだがなあ」

「そうそう魚や海老の味が分からない訳じゃないのよ」

「これは茹でたてで美味いな」

「そうね、シンプルに塩で頂くと素材の美味しさが分かるわね」

 ルイスとモニカもザリガニを気に入ったみたい。肉と一緒に料理しても喜ばれそうだ。


「モニカ、お肉も食べたい」

「どっち?両方?」

「ハニーケチャップの方!」

 モニカが取ってくれた。

「今日も美味しいね!」


 ユルギスさんとマルクさんも恐る恐るハニーケチャップ味の豚肉に手を出す。

「…美味いな」

「ハニーっていうけど甘さは感じないな。ジャガイモに合う」

「そうそうハニーって聞いて怯んでいたんだけど鍋のフタを開けた時の美味そうな匂いがたまらなくて!…うん、美味い」


「枝豆が茹で上がったよ!」

 ウィルコが運んできた枝豆に首を傾げる2人。


「こうやって食べるの!」

 サヤを齧って中の豆を押し出すとサヤの塩味がちょうどいい。

 私たちを真似するユルギスさんとマルクさん。次々と枝豆に手が伸びる。

「これ、不思議と美味いんだけど…」

「塩を振ってあるのかな?」

「そう。サヤごと茹でて塩を振っただけ」


 1番気に入ってもらえたのは枝豆だった。明日のデモ販売でも試食に出して大豆を販売すると言ったら喜んでくれた。


 思いがけず楽しい夕食となった。ユルギスさんとマルクさんに感謝だよ!

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