第200話 東へ

 東へ向かうことになった。

ウィルコの世界で堂々と、お肉のおむすびを食べたいという理由で。お米と醤油とお味噌は私も嬉しい。



 いつも通り軽装で馬車を走らせる。


「国内の様子を見ながら移動するっていいわね」

「ウィルコが結界のテレビに映してくれる映像でだいたい分かるけど、こういう旅もいいな」

 今日の御者はモニカとルイス。2人も今回の旅を楽しんでくれているみたい。


 自分たちの目で世界の変化を確かめたいという理由で今回の旅はゆっくりだ。それだけ余裕が出来たってことだよね。

 私とウィルコは馬車の後ろでルイスやモニカとは逆向きに通り過ぎる景色を見ている。


「ねえウィルコ」

「なに?」

「旅の途中でお茶の木があるよね?」

「うん、結構東へ進まないといけないけどね」


 地球では茶の木は中国原産だ。インドのアッサムとか日本の緑茶とかいろんなバリエーションがあっていいよね、お茶大好き。


「僕の世界では、まだお茶を飲んでいる地域はないみたい。もともと茶の木自体は自生しているけど僕の力で増やしておいたよ。アッサムでミルクティーとか美味しいよね」

 そう、ウィルコはお茶も好きだった。茶の木は利用方法が豊富だもんね。



 いくつかの村を通過したが、どの村も問題なく冬を越していたので一安心だ。春になって農作業が始まったり、どの村もいきいきとした活気に包まれていた。


ある程度進んだところで日が暮れてルイスが馬車を停めた。

「今日はここで野営しましょう」

 モニカに声を合図に馬たちの世話をする。荷物は無いけど4人も乗せてくれてありがとうね。



「夕飯はどうする?」

「今日のメインはミートローフだぞ」

 作ったばかりのミートローフを食べる気満々のルイスとモニカ、もちろん私も食べたい。


「スープはカルド・ヴェルデにしようよ」

 カルド・ヴェルデはポルトガル北部で食べられている青菜とジャガイモのスープだ。シンプルなレシピだから現地の人に見られても問題ない。



 芯を取ったニンニクは薄切りに、ジャガイモはひと口大、玉ねぎは薄切り。

 ダッチオーブンにオリーブオイル、ニンニクを半分、玉ねぎを入れて炒める。玉ねぎがしんなりしたらジャガイモと水、塩を入れ、沸騰したら弱火で煮こむ。

 ジャガイモが柔らかく煮えたらミキサーにかけるんだけど、今日はルイスがヘラで滑らかになるまで潰してくれた。

 残りのニンニク、チョリソ、ケールの千切りを入れて煮込んだら塩で味を整える。


ちょっと作りすぎた。2、3日分はあるかも。


「パンが焼けたよ」

今日もウィルコがパンを焼いてくれた。


「ご飯にしよう!」

 大きなミートローフに焼き立てパン。スープも食べ応えあるから大満足な夕飯になった。


「カルド・ヴェルデにはカットしたチョリソを乗せてオリーブオイルを垂らすと美味しいよ」

 もちろんルイスとモニカは多めにチョリソを乗せた。


「このスープ美味しいわね」

「ジャガイモがもったりしてて腹にたまるな」

「チョリソも入ってるから旨味があるね」


 ケールたっぷりだけど気に入ってもらえたみたい。

「Caldo Verde(緑のスープ)って名前の通り緑色のスープで、ポルトガルではこのスープのために細くカットされたケールが売ってるくらい一般的なんだって」


 スープの話をしていたら野営地に馬車が入ってきた。親子っぽい2人が手早く野営の支度を整えて携帯食で夕飯を済ませていた。


「ルイス」

「分かった」

「僕たちはスープを温め直しておくよ」

「ベーコンを焼きましょうか」


 私がルイスと手を繋ぐとウィルコとモニカも動いてくれた。


「こんばんは!」

「やあ、こんばんは」

「今日は同じ野営地で過ごさせてもらうよ」


「我々は王都を拠点にしている商人の家族なんですが反対方面から来られたようなので是非食べながらお話を聞かせてもらえませんか?」

「ルイスとモニカのスープもウィルコのパンも美味しいよ!」


「それは、ありがたいですが」

「よろしいのですか?」

「早く!スープが冷めちゃうから」


いつものように少し強引に連れてきた。


「そちらに座って」

 ウィルコとモニカがパンとベーコンとミートローフを盛り付けたお皿を置いてくれていた。

「スープをどうぞ」

ウィルコが温め直したスープを配った。


「これは美味しいですね!」

「南部で仕入れたチョリソを入れたスープよ」

 ミートローフもスープも焼いたベーコンも気に入ってもらえたようだ。2人は親子でお父さんがミロスさん、息子さんがスタヴロスさん。


「国が安全になったから遠い地方へも仕入れに行けるようになったから今回は国の外を目指しているんだ」

「私たちは国の南東部の村の者です。海も近く気候も温暖で以前から国の中では比較的豊かな村かもしれません」

「コモティ村といってオリーブやハチミツが近隣で評判の村なんですよ」


── コモティ村ってギリシャ東部っぽい文化の地域だったな。


「良かったらお試しください」

 スタヴロスさんがオリーブとハチミツとワインを持ってきた。


── ワイン…ギリシャといえばワインだったわ。いいな…。サントリーニワインとかクレタのワインとか有名だったわ。飲みたいな…。


「ほらカレン」

「ありがと!」

 私がカップを受け取るとルイスがワイン、モニカがリンゴジュースを注いでくれる。


「どうだ?」

「美味しいよ!」

「どんな味?」

「リンゴジュース!」


ぶふぉ!


 ミロスさんとスタヴロスさんがふき出した。仕方ないじゃん、リンゴジュースが強すぎるんだもん。

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