30. お使いしてる間に
銀饅頭も浄化したし、土ゴーレムの掃討も終わった。一時的な安全は確保できたので、防衛に当たっていた冒険者たちには休んでもらっている。もちろん警戒をゼロにするわけにはいかないから、一部の人たちは見張りに駆り出されているけど。まあ、交代でやればそれほど負担はないはずだ。入り口付近には監視ゴーレムを設置しておいたから、基本的にはそっちが仕事をしてくれるはずだし。
防衛戦がひと段落したから改めてレイたちと旧交を温める……といきたいところだったけど、すぐには難しかった。レイはキグニルの代官としてこの場にいるから、戦力の確認とか、補給の用意とか、いろいろとやることがあるみたい。
「すまないな。夜には時間がとれる。そのときに、いろいろと聞かせてくれ」
「うん、わかったよ。お仕事、がんばってね」
「ああ、ありがとう。まあ、トルトのおかげで、どうにかなる道筋が見えたからな。やるのは単純な事後処理だ。何ほどのことでもないさ」
そう言って、レイはキグニルに戻っていった。ハルファと話していたミルとサリィも一緒だ。
ただ、ドルガさんは残るみたい。レイたちにはついていかず、僕らに話しかけてきた。
「よ! さっきはどうもな。助かったぜ。俺はドルガ。まあ、さっきの坊ちゃんの関係者だ。トルトとハルファとも面識がある」
『僕もだぞ!』
「ああ、シロルもだな」
「俺はローウェル。こっちが妹のスピラだ」
「よろしくー」
さっきまでバタバタしてたから、今更自己紹介だ。ドルガさんは僕の短剣術の師匠……なんだけど、最近はほとんど短剣を使ってないから、ちょっと気まずい。いや、だってゴーレムが便利すぎるんだもの。
「ドルガさんはレイと一緒に行かないでいいんですが?」
「俺か? 俺はまあ、お前のお目付役だよ」
「お目付役? 変なことをするつもりはないですよ」
「ははは、別に悪さをすると思ってるわけじゃないさ。ただ、目を離すといろいろやらかしそうだからなぁ。いち早く状況を知るために、ついていた方がいいという判断だ」
えぇ? やらかすってなにさ。
別におかしな事をするつもりはないんだけどな。
ただ反論はしないでおいた。ローウェルがうんうん頷いているからね。流石に二対一だと分が悪い。
「まあ、いいですけど。ちょっとやろうと思うこともあるので、お伺いを立てなくて済むならありがたいです。でも、ちょっと待ってくださいね。先に行かないといけないところがあって」
「ん? 適当についていくから、どこに行っても大丈夫だぞ」
「あ、いえ、ラフレスなんで……」
「は? ラフレスゥ!?」
目的地を告げると、ドルガさんは素っ頓狂な声を上げる。気軽に行って帰ってこれる距離じゃないから、当然かもしれない。ただ、すぐに平静を取り戻したのは流石だ。
「まぁ、来たときも唐突だったしな。トルトならできるんだろうなぁ」
「えっと……まぁ。ただ今回は一人での移動なので、ドルガさんを連れてはいけないんです」
こっちには夢見の千里鏡で来たけど、肝心の鏡は向こうに置き去りだ。そもそも、ラフレスに戻るのはプチゴーレムズのお迎えと置いたままになったアイテムの回収だからね。鏡を使った移動はできない。
ではどうするかというと、もちろんシャドウリープだ。プチゴーレムズには、影ゴーレムがついているので、いつでも移動できる。
ということを説明すると、ガルドさんは理解不能という表情を浮かべてから大きく頷く。
「よくわからんが、わかった。とにかく、お前一人で戻るわけだな」
「はい。忘れ物を回収するだけなので時間はかかりません」
「そうか。それならついでに今回の襲撃を本部に報告してきてくれないか」
「ああ、そうですね。わかりました」
ギルド本部への報告は、本当ならギルドマスターのマドルスさんがやるんだけど、その当人がラフレスにいるからね。僕がついでに報告した方が余計な手間がない。
「じゃあ、行ってきますね」
「ああ、頼むな」
シャドウリープでの移動は瞬時にとはいかない。体感だと一瞬だけど、
着いたらまずはプチゴーレムズに事情を説明。夢見の千里鏡でハルファを映し、プチゴーレムズにはキグニルに移動してもらう。そのあと、鏡とマジックハウスを回収すれば僕の用事は終わりだ。帰りは再びシャドウリープで戻る……んだけど、その前に、本部への連絡だね。
簡単に報告だけするつもりだったのに、グランドマスターのローゼフさんと面会することになってちょっとだけ大変だった。でも、これでお使いも無事終了。ついでにマドルスさんも見かけたので、戻った方がいいですよと伝えておいた。
まあ、マドルスさんもすぐに戻るつもりだったみたいだけど。ラフレスに留まっているのは、浄化の魔道具を確保するためだったそうだし。僕がキグニルにいるなら、他の支部から魔道具を借り受ける必要もないってことだね。
これで本当にミッション終了。シャドウリープで、ハルファの影ゴーレムを目印に移動する。
「ただいま」
「あ、おかえり~」
「うぉ!? もう行って戻ってきたのか?」
ハルファは慣れたものだけど、ドルガさんは派手に驚いている。そのドルガさんに、ローウェルが笑いかけた。
「ははは、この程度で驚いていてはもたないぞ。このあとも、きっと何かするつもりだろうからな」
「この程度、か。俺の知っている頃より、格段にパワーアップしているな。アンタも大変だろ」
「ふっ……まあ、トルトには恩があるからな」
ちょっと離れた隙に、ローウェルとドルガさんが意気投合してる。それはいいんだけど……
ローウェル!
そこは否定するところだよ!
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転生したら奴隷だったので人生絶望的かと思ったけれど豪運スキルをきっかけになんだかんだうまくやれてます 小龍ろん @dolphin025025
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