大きな歌声作戦

 僕の考えている対策にはハルファとゴーレムたちの力が必要になる。


「ハルファが歌う『鎮めのうた』を上空から増幅して届けるんです」


 プチゴーレムズは相変わらず喋ることができないけど、風ゴーレムのときには僕らの言葉を復唱することができる。実はこれ、空気の振動を再現して反射しているみたいなんだよね。自我のないゴーレムたちにも指示すれば同じようなことができた。


 これを利用すれば音の増幅ができる。

 例えば、ゴーレムを四体用意する。増幅したい音とほぼ同時に四体のゴーレムが音を再現すると元の音量の五倍……になるかどうかはわからないけど、結構大きな音が出る。お互いが出した音を合わせて再現すると、もっと大きな音にもできる。音が干渉しあうから際限なく増幅できるわけじゃないと思うけど、街中に響かせるには十分な音量になるんじゃないかな。いわば、ゴーレム式拡声器だね。


 幸いなことに、ゴーレムたちの音再現は指向性を持たせることができるので、間近で待機することになる僕たちも爆音で耳がおかしくなっちゃうようなことはないはずだ。


 ただ、懸念点もある。


「問題は、ゴーレムたちに鎮めのうたの効果まで再現できるかどうかですけど……」

「そうだニャ~。音を完全に再現するのなら効果はあると思うニャ。でも、発動者はハルファという扱いになるから、たぶん滅茶苦茶マナが必要になるニャ」


 ラーチェさんはおそらく直感スキルを持っている。そのラーチェさんが言うのなら大丈夫そうだ。マナに関しては、マナ回復ポーションだと歌が途切れちゃうから、マナの回復速度を一時的に上げるポーションの方がいいかな。幾つか用意してあるので、それを使ってもらおう。


「まあ、他に手もないし、試してみるニャ! 効果がなければ、ただ歌が響くだけニャんだから、潜伏してる奴らも騒いだりしないはずニャ!」


 ニコニコ笑顔でラーチェさんがゴーサインを出した。それをバッフィさんがじろりと睨んだ。


「ラーチェさんはここで待機ですよ?」

「ニャ!? でも、空を飛んで目立つから、敵から狙われるかもしれないニャ! あたしがいれば安心ニャ!」


 もっともらしい理由をつけて、何とか飛行船に乗り込もうとするラーチェさん。だけど、別の問題があるんだよね。


「すみません、ラーチェさん。飛行船は定員ギリギリなんです」


 ヘリウムゴーレムの膨張率を調整すれば一人増員するくらいの重量増加は平気だと思う。でも、ゴンドラ部分が狭いので乗員を増やすのが厳しいのは本当だ。もし、何者かが襲ってくるのなら戦いになる。そのときに狭すぎて身動きがとれない、なんてことになると困るからね。それに空から襲ってくるなら遠距離攻撃が主体になるんじゃないかな。近接格闘が得意なラーチェさんには攻撃手段がほとんどないからね。


「そんニャ~……」

「何を言ってるんですか、ラーチェさん。洗脳が解けるにせよ、解けないにせよ、何らかの混乱が起こる可能性はあるんですよ。ギルドマスターとして指揮してもらわないと」

「おお、そうだニャ! 書類仕事じゃないなら、どんとこいニャ!」


 しおしおと萎れるようだったラーチェさんが、一気にやる気を取り戻した。さすがバッフィさんだね。ラーチェさんの扱いが上手い。


「というわけで、ハルファにも協力して欲しいんだけど」

「もちろん、やるよ!」


 ハルファからはやる気満々という感じの答えが返ってきた。他のみんなにも異論はないみたいだね。


 そうと決まれば早速決行だ!

 街の中で飛び立つと驚かれるから、市壁の外で飛行船に乗り込んだ。ヘリウムゴーレムを作り出して膨らむように指示すると、飛行船がゆっくりと浮上していく。今回は、上空から歌を届けるのが目的だから、高度は低めに保ってもらう。


 ちょうどいい高度を確保したら、今度は音声増幅用のゴーレムを作ろう。まずはマイク役のゴーレム。この子がゴンドラ内でハルファの歌声を受けとる。ケーブルのように長い尻尾があるので、それを伝って音声を船外に届けることができるんだ。それを受け取るのがスピーカ役の四体のゴーレムだ。この子たちは船底に張り付くような形で待機。受け取った音を増幅しつつ下方向に出力する。


 準備ができたら出発だ。移動にもエアジェットを使うので僕のマナ消費も激しい。途中でマナ回復ポーションを使った方がいいかもね。




 アイングルナの街にハルファの歌声が響く。多くの人は何事かというように空を見上げているけど、中には反応がおかしい人もいるね。頭を抱えるようにうずくまったり、中には気を失って倒れている人もいる。きっと洗脳を受けている人たちだろう。やっぱり、鍵を持っている人たちはガルナラーヴァの声を聞いたんだ。


 このまま飛行船でアイングルナ全域を回って洗脳を解いていこう。そう考えたんだけど、この状況を敵方も黙って見過ごすつもりはないみたいだ。アイングルナの中央付近の建物から、何かがこちらに向かって飛んでくる。その正体は黒い靄を纏った巨鳥。禍々しい姿は、ガロンドの地下水路で見た邪竜を彷彿とさせる。間違いなく、ガルナラーヴァの手先だね。

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