アリだー!

 オーダーメイドのベッドが揃ったところで、いよいよ本格的にダンジョン探索に乗り出した。地形生成型のダンジョンは広いから最短ルートで階段を目指しても、移動には時間が掛かる。途中、採取やドロップ目当ての魔物狩りをしたせいで第10階層にたどり着くのに7日が経過した。この辺りから、Cランクの魔物がちらほらと出現するようになる。もしかしたら、これまでの階層にも、第1階層のゴールデンスライムみたいにレア枠でCランク魔物がいるかもしれないけどね。


 僕たちが目指しているのは第15階層。その辺りになると、出現する魔物はほぼCランクになる。ステータス向上薬のための魔石の収集には都合がいい。


 まあ、まずは第10階層の探索だ。全体が森になっていて、探索しづらいフロアなんだよね。地形生成型ダンジョンだから、迷宮型と違ってフロアに仕掛けられた罠は少ない。代わりに、天然……といっていいのかわからないけど、地形に応じた障害が潜んでいるんだ。森林地形は特に厄介で、触れると毒胞子を飛ばす植物や、炎症を引き起こす茸がこっそりと生えている。下手な罠よりもよほど危険だ。


「うーん、駄目だ。【罠解除】のスキルじゃ、探知できない。解除も無理かな。下手に触ると危ないかも」


 困ったことに、これらの地形効果はあくまで罠とは別カテゴリーみたいで、【罠解除】のスキルが働かないみたいだ。


「そうなんだ。それなら、ここはあたしが頑張るね!」


 幸いなことに、森林地形に関してはスピラがいればどうにかなる。樹属性を持つ精霊だけあって、森の中の情報は朧気おぼろげながら把握できるみたい。危険な植物は氷属性で凍結させて一時的に無害化もできる。この階層での探索役はスピラに任せた方が良さそうだね。


「あ、ちょっと止まって。その花の花粉は吸い込んだら、眠たくなっちゃうよ」

「え? ああ、あれかぁ」


 うーん、周囲全部が植物だらけだから、判別が難しい。どこを見たらいいのかわからなくなるね。スピラがいてくれて本当に良かったよ。ギルドで地形判別ができるようなスキルを学べるかも知れないけど、そのために第1階層まで戻るのは大変だからね。うーん、講習について調べなかったのは失敗だったな。ダンジョンに慣れてきたと思って油断してたのかもしれない。


『お、アリだぞ!』


 スピラの先導でしばらく森を探索したところで、ついに魔物と遭遇した。巨大な蟻の魔物だ。こいつはソルジャーアントだね。第2階層で出現するビッグアントは、大きさこそ子犬並だったけど、見た目は普通の蟻だった。でも、ソルジャーアントは三対ある足のうち一対が手のように発達していて、武器を扱うんだよね。人型と呼んでいいのかはわからないけど、知能もそれなりに高く集団で連携されると手強い相手だ。ランクはCだけど、個としての強さではなく集団としての評価なので、魔石をステータス向上薬の材料にするには不向きかもしれないけどね。


 ともかく、まずは戦いだ。木々の合間から現れたのは三匹のソルジャーアント。体高がローウェルと同じくらいあるから、かなりデカい。こいつらは仲間を呼ぶからモタモタしていると収集がつかなくなる。素早く倒してしまおう。


「じゃあ、いくよ!」


 ここ最近の戦闘は、まずハルファの先制から始まる。


「わっ!!!」


 ハルファが大きな声で叫んだ。もちろん、意味もなく叫んだわけじゃなくて、ちゃんと攻撃になっている。スクロールで習得したショックボイスを使ったんだ。直線状に不可視の衝撃波を放つ攻撃魔法……なんだろうけど、やっぱり威力がおかしい。標的になったソルジャーアントの頭が、攻撃を受けた瞬間に弾けとんだ。ダンジョンの魔物は倒すと消えるからいいけど、ダンジョン外だとスプラッタな光景になるのは間違いないね。


 しかも、衝撃波は標的にぶつかっても消えないみたいで、10mほど先の敵までまとめて攻撃できる。指向性が高いので射程はともかく範囲は狭いんだけどね。とはいえ、叫んでいる間発動し続けるので、叫びながら顔を左右に振ると扇状の範囲を攻撃できるみたいなんだ。


 森林地系だと木が邪魔して威力が落ちるかと思ったんだけど、そんなこともなかった。むしろ木も魔物と一緒になって粉砕されている。たちまちのうちに、三匹のソルジャーアントと周囲の木々は一掃されてしまった。Cランクの魔物を歯牙にもかけないなんて、強すぎない?


「ハルファ、マナは大丈夫?」

「まだ大丈夫だけど……そろそろ休憩した方がいいかも」

「そっか。じゃあ、ちょっと早いけど、ここで野営の準備をしようか」

「はーい!」


 強力なだけに、マナの消費はそれなりに大きいみたい。第9階層でも連発してたから、少し底が近づいてきたみたい。あと数度使う分には問題ないくらいのマナはあると思うけど、早めに切り上げて貰おう。いざというときに余力がないようじゃ困るからね。


 幸いというか何というか。ハルファがショックボイスで木々をなぎ払ったおかげでちょっとしたスペースができている。この階層の木は特殊なのか粉砕されたときに、魔物みたいに消えてしまったんだよね。木材として活用できないのは残念だけど、その代わり根っこごと消えるから平たい場所を確保するには都合がいい。いつかリポップはするだろうけど、一泊するくらいなら大丈夫だろう。たぶん。


 野営といっても、マジックハウスがあるので、快適に過ごせる。とはいえ、マジックハウスにも欠点があるんだよね。展開中に外部から衝撃をうけると、内部が激しくシェイクされるんだ。もし、完全に破壊されたらどうなるのか、想像するとちょっと怖い。だから、見張りが必須。しかも、中から外の様子を窺うことはできないので、見張りは外に立つ必要がある。もっと人数がいれば楽なんだろうけど、4人と1匹には結構負担だ。


 まあ、一応対策はあるんだけどね。

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