埴輪型

「マジックハウスの展開はスピラにお願いしてもいいかな?」

「わかった!」


 マジックハウスの展開には多少のマナが必要になる。僕らのパーティーでマナ容量が一番多いのはスピラだから、彼女にお願いすることが多い。といっても、僕たちにとっても、それほど負担が大きいというわけじゃないけどね。


 さて、僕は僕でやることがある。


「〈クリエイトゴーレム〉」


 野営の切り札。それはゴーレムだ。実はゴールデンスライムがドロップしたアイテムの中にクリエイトゴーレムの魔法スクロールがあったんだよね。シャドウリープと同じく、魔術師ギルドでは見かけないレアなスクロールだ。


 こういうレアなスクロールって、何度も手に入るものじゃないから、偶然手に入っても運良く魔法を習得できることは稀なんだよね。でも僕の場合、習得に失敗したことがない。そういう事情もあって、初めて手に入れたスクロールは全部僕が使わせて貰うことになっている。


 というわけで、クリエイトゴーレムが使えるようになったわけだけど、最初は微妙な魔法だと思っていた。ゴーレムの素材には土を使う。そのせいか、分類としては無魔法なのに土魔法のレベルも要求されるんだ。残念ながら、僕は土魔法を習得していなかった。なので、僕に作れるのは、せいぜい腰くらいまでしかないゴーレムだ。しかも動きがとても緩慢。ゴーレムに期待する役割は壁役だと思うけど、現状では壁役ではなく、ただの壁にしかならない。例えば、後衛の護衛につけたとしても、普通に迂回されて後衛が狙われてしまうだろうね。動作が遅すぎて襲撃者の動きにまるで対応できないから。


 そのままでは運用が難しいので、少しアレンジを加えたゴーレムを作り出すようにした。大きさは手乗りサイズ、しかも中身は空洞だ。その分、外殻はガチガチに硬くしてある。見た目はちょっと埴輪はにわっぽくなったかな。足はあるけど。


 このアレンジによって、耐久力は本来のゴーレムより下がったけど、その変わり機敏に動けるようになった。手乗りサイズなので移動速度は微妙だけど、それでも元のゴーレムよりは速い。小さいから敵にも見つかりにくいというメリットもある。どうせ戦闘では役に立たないから、見張りの役目だけに特化させたんだ。


「よし、君はプチ一号だね?」


 名前を呼ぶと、手乗りゴーレムがコクリと頷いた。

 この魔法で作り出したゴーレムは半日くらい稼働したところでマナが切れて崩れてしまう。だから、必要になるたびに作り直すんだけど、毎回別個体というわけでもないみたいなんだ。どうも呼び出す順番ごとに、共通の自我を持っているっぽい。


 続けて、クリエイトゴーレムで三体のゴーレムを追加で作り出す。名前はそれぞれ、プチ二号、プチ三号、プチ四号だ。正直、適当な名前をつけたことを後悔している。まさか、それぞれに自我があるなんて思ってなかったんだ。しかも、最初につけられた名前にこだわりがあるのか、別の名前を提案しても嫌々と首を横に振って拒否されちゃう。なんでだよぅ。


 まあ、名前はともかく。ボディは使い捨てでも、頭脳は共通しているってことで、少しずつ経験が蓄積しているみたいだ。動きも初回よりスムーズだし、ちょっと複雑な命令も理解できるようになっている。頼もしい存在だ。


「よし、それじゃあ見張りをお願い!」


 四体の手乗りゴーレムが一斉にうなずく。いや、一斉じゃないや。プチ四号はのんびり屋なのかワンテンポ遅れるんだよね。ちょっと面白い。


 夜の間はプチゴーレムに見張って貰うことで安心して休むことができる。最初は交代で一人は起きて、マジックハウスの玄関口すぐの広間で待機しておくことにしてたんだけどね。プチゴーレムたちがきっちりと働いていることが確認できたから、完全に任せることにしたんだ。何かあれば、マジックハウスに入ってすぐに置いてある警報の魔道具をならしてもらうことにしている。


 というわけで、見張りはプチゴーレムたちに任せて、僕たちはゆっくりと食事を取る。収納リングに納めている料理を出してもいいけど、時間があるから何か作ろう。この階層まで来る途中に、食材アイテムは結構集めているから、わりと材料は揃っている。マナ回復速度が上がる薬膳料理でも作ろうかな。


 台所も、浴室も、トイレも。便利な水道なんてないから、マジックハウス内で水を使うならクリエイトウォーターは必須だ。貯めておく場所があるから、毎回使う必要はないけどね。不思議なのは、排水。排水溝はあるんだけど、そこに流れ込んだ水は消えてなくなってしまうんだ。まあ、魔法で水が出せるんだから、同じように魔法で消せてもおかしくないか。


 食事も終わって、お風呂にも入って、あとは寝るだけだ。わりと寄り道多めでのんびりとしたペースで探索しているけど、日が高いうちはほぼ動き回っているので疲れは溜まる。森なんて歩き慣れてないから、この階層は特に疲れた。その分、マジックハウスの存在が本当にありがたく感じるね。それじゃあ、おやすみ。


 で、朝まで寝ているはずだったんだけど――


「……はっ!? 警報!」

『なんだなんだ! 魔物か!?』


 フォンフォンと激しい音がマジックハウス内に鳴り響いて目が醒めた。寝室は真っ暗。マジックハウス内は照明をつけない限り、外と同じ明るさになる。つまり、まだ真夜中ってことだ。


 暗視の魔法をかけるかどうか迷ったけど、今はやめてランタンに火を灯す。急いで入り口広間に向かうと、すでにローウェルがいた。


「魔物?」

「いや、どうも違うみたいだが……」


 尋ねると、微妙な答えが返ってきた。知らせに来たプチゴーレム――こいつはプチ四号だね――に視線を向けると、ゆるゆると首を横に振っている。魔物ではないみたい。


 いったい何があったんだろう?

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