筋肉さん
プチ四号がゆったりとした動作で何かを伝えようとしている。だけど、手をばたばたさせているだけなので何も伝わってこないんだよね。うーん、動作がゆっくりだから焦りは感じないんだけど……、プチ四号はのんびり屋だから断定はできない。
「……あれ、何してるの?」
「魔物じゃないの?」
そうこうしているうちに、ハルファとスピラもやってきた。
「魔物ではないみたいだけど……」
尋ねられても、僕だって状況はわからない。そのせいで、どうも緊迫感が持てないんだよね。とはいえ、わざわざ警報をならしたってことは、外で何かがあったのは間違いない。さすがに焦れてきたのかプチ四号の動きも少しバタバタしてきた……ような気がする。ほんのちょっとだけど。
「外に出てみるしかないだろう。俺が行く」
「あ、待って。僕も行くよ。ひとりだと対応できないかもしれないでしょ」
「……そうか。ならば、俺のあとに続いてくれ」
「わかった」
ローウェルはひとりで確認するつもりだったみたいだけど、外に出た瞬間に不意打ちを受ける可能性がある。フォロー役がいるかいないかで対応力は大きく変わるだろうからね。それがわかっているから、僕の提案を拒否することはなかった。
タイミングを合わせて、二人で外に出ると、そこにはプチゴーレム三体に囲まれて困惑顔の男性がいた。その男性の特徴をひとつあげるなら――マッチョ! 全身筋肉の鎧に覆われている感じ。袖無しシャツとズボンに革鎧という明らかに筋肉を強調した格好だ。正直、森林地形にふさわしい格好だとはいえない。草むらも多いし、小枝がちくちくと突き刺さる。肌を露出していると大変なはずなんだけどなぁ。
ちょっと予想外の光景に動きを止めていたら、マッチョの男性が僕たちに気がついたようだ。
「お、おお、人が来たか! こやつらは君たちの……君たちの、なんだこれは?」
「ゴーレムです」
「ゴーレム……? そ、そうか、ゴーレムであったか。しかし、ゴーレム……?」
どこにも不審点なんてないというのに、マッチョさんは腑に落ちない様子でぶつぶつ呟いている。
失礼な!
ちょっと埴輪型だけど、立派なゴーレムですけど!
何故かローウェルもうなずいていたので、ひと睨みしたら慌てて表情を改めていた。どこからどう見てもゴーレムなのに!
まあ、それはともかく、プチゴーレムたちの包囲は解いてあげよう。正直、あのマッチョさんが踏みつけたら、それだけで粉々になってしまうからね。何の抑止力にもならない。
「ありがとう、もういいよ。見張りに戻って」
三体のプチゴーレムは任務終了とばかりに、右手を掲げた。敬礼のポーズみたいなものだろう。たぶん。
さて、問題はマッチョさんだ。第十階層にいるってことは冒険者なんだろうけど、何者だろうか。プチゴーレムたちを攻撃しなかったところを見ると、こちらに害意があるわけじゃないんだろうけど。
「それで、僕たちに何かご用ですか?」
考えてもわからないので、率直に聞いてみる。すると、マッチョさんは頭に手をやり、苦笑いを浮かべた。
「用があったというわけではない。森の中に見慣れぬ物があったので確かめようとしたのだ。近づいたところで面妖な者ら……」
「ゴーレムです」
「そ、そうであった。ゴーレムだな。ともかく、あやつらに囲まれて、さきほどの状況になってしまったわけだ」
見慣れぬ物の正体が家らしきものであることに気付いたマッチョさんは、プチゴーレムがそれを守るような動きをしたことから、使役している者がいると判断したんだとか。プチ四号がマジックハウスに入っていたことも気付いていたらしく、待っていたら使役者が出てくるだろうと様子を見てたようだ。
「ともかく、不用意に近づいて悪かった。下手に逃げると怪しかろうと思って待っていただけで、特に用事もない。騒がせてすまなかったな」
「あ、いえ……。たしかに、見慣れないものがあったら、不審に思いますよね」
冒険者同士の暗黙の了解で、お互いの野営地には不用意に近づかないものだけど、まさかそれが森のど真ん中にあるとは思わないか。昼間なら気がつくんだろうけど、夜の森は真っ暗だからね。
「でも、それなら、他の冒険者たちはどうしてるんです?」
「ん? まあ、それぞれだが、大抵はいくつかある野営地で夜を過ごすな。もちろん、それ以外の場所で夜を明かす者もいるが、そういう場合でも普通は見張りを立てて、明かりを絶やさない。だから、遠目に見ても、冒険者であることは判断できるな」
なるほど!
僕らはマジックハウスがあるから、あまり場所を選ばずに野営ができるけど、普通はそうじゃない。パーティー分の天幕となればもっと大きいだろうから、もっと開けた場所じゃないと野営なんてできないんだ。それに普通は見張りの明かりがあるから、人がいるかどうか判断できるみたいだね。プチゴーレムには暗視能力があるから、明かりを用意してなかったけど、これからはランタンでも吊しておいた方がいいかな。でも、明かりが灯っていると魔物が寄ってきそうなイメージがあるんだよね。大丈夫なのかな。
「明かりが魔物を引き寄せたりしないんですか?」
「ふむ? たしかに、寄ってくる魔物は増えるだろうな。だが、奴らは人の気配に敏感だ。明かりなどなくても寄ってくるぞ。そのときに視界が確保できないと不利だ。そんなわけで、明かりがついた状態で見張りをするのが普通だな」
なるほど、見張りの存在自体が魔物を引き寄せるわけだ。そういう意味ではプチゴーレムの見張りはいい感じだよね。ゴーレムはあくまで魔法の創造物。たぶん、魔物たちにも気配を感じ取れないと思う。まあ、マジックハウスの中の気配が感じ取れてたら意味がないけどね。でも、これまで野営で魔物の襲撃は予想外に少なかった。それを考えると、気配が外に漏れている可能性は低そうだ。
だったら、襲撃が少ない現状を無理に変える必要はないね。ランタンを吊してくのは止めにしよう。ここのダンジョンは各階層が広いし、普通の冒険者は野営地で過ごすみたいだからね。不意の遭遇なんて滅多に起こらないだろう。
というわけで、野営の方針は現状維持でいいとして。ちょっと疑問があるよね。
「あなたはなんでこんな夜に森の中を歩いていたんです?」
ストレートに疑問をぶつけると、マッチョさんは不敵な笑みを浮かべた。そして、両手で力こぶを作るような姿勢をとる。ボディビルダーがやるような筋肉を強調するポージングだ!
「それはもちろん――筋肉を鍛えていたのさ!」
いやそうじゃないんだよ。
なんでそれを夜にやってたのか聞いてるんだよぅ。
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