疑惑?
ひとまず、依頼人のおじいさんに成果を報告する。そのときに、獲得したスライムの魔石を提示すると、おじいさんは目を丸くして驚いていた。ノルマの5個に対して僕たちが集めた魔石は40個以上だからね。それは驚きもするだろうね。
ついでに、金ぴかスライムについても聞いてみたけど、おじいさんは見たことがないらしい。まあ、あんなスライムが現れるようだと危ないし、注意もされるだろうから、予想通りではあるけど。
ともかく、依頼完了の報告もあるので、僕らは冒険者ギルドへと向かった。スライム退治にはそれなりに時間がかかったので、今はお昼前といったところかな。ギルドも人が少ない時間帯だ。おかげで、受付の待ち時間もほとんどない。列に並んですぐに僕たちの番が来た。
対応してくれたのはバッフィさんだ。依頼完了の報告は簡潔に済ませて、金ぴかスライムについても報告しておく。
「第一階層で黄金色のスライム……ゴールデンスライムですか? 珍しいですね」
「うーん、どうでしょう。ゴールデンスライムにしてはおかしな点があったんです」
特殊な障壁や僕に向けて放たれた影矢について説明すると、バッフィさんは眉をひそめた。
「障壁はともかく、標的を追跡してくる魔法ですか……。街の外とはいえ農地には一般の人も出ますから、放置はできませんね」
やっぱりそうだよね。
第一階層にいるスライムはほとんど危険な攻撃手段を持たない。だからこそ、安全に過ごせるわけだけど、油断にもつながる。スライムに慣れきっている街の人は、あの金ぴかスライムに遭遇したとしても危険な存在だとは考えないだろう。害はないと放置して、被害が出る可能性は高い。
「ところで、あのスライムは何なんでしょうか? バッフィさんは心当たりがありますか?」
「そうですねぇ。やはり、ゴールデンスライムではないでしょうか。アイングルナのダンジョンでは時々、特殊な能力を持った魔物が発見されるんです。第一階層で発見されたのは初めてですが……」
「きっと、ゴドフィーの仕業ニャ! そうに違いないニャ!」
金ぴかスライムの心当たりについて尋ねていると、突然、ラーチェさんが話に割り込んできた。書類仕事は大丈夫なのかな? ただ、ちょっと聞き逃せない言葉もあった。ゴドフィーの仕業?
「ゴドフィーというのは?」
「逃げたギルドマスターのことニャ! マッドな奴なのニャ!」
「ラーチェさん、変なことを言わないでください! というか、仕事はどうしたんですか?」
「街の危機なのニャ! 書類仕事なんてしてる場合じゃないニャ! バッフィが適当にやっとけばいいニャ!」
「なっ!? 適当ってどういうことですポコ! だいたい、ラーチェさんが嫌がるから、回してる仕事は最低限なはずポコ! あとは私がやってるんですポコ!」
……ポコ?
あ、興奮しすぎて獣人訛りが出たのか。耳の形によらず獣人って一括りだし、本人たちも区別をつけていないから、訛りも同じだと思ったけど、それぞれ違うんだね。でも、なんというか斬新な訛りだよねぇ。
おっと、暢気に二人の口喧嘩を聞いてる場合じゃないね。
「あの……。ひとまず、ゴドフィーさんについて教えてもらえますか?」
「……あぁ! すみません!」
「そうだったニャ!」
どうにか落ち着いた二人から話を聞き出したところ、どういう人物なのか少し分かってきた。ラーチェさんの前任で、突然失踪したという元ギルドマスターがゴドフィーさんらしい。例によって元冒険者なんだけど珍しく学者肌で、ダンジョンの研究をしていたそうだ。ギルドマスターになってからも、アイングルナのダンジョンで出没する特殊個体の研究をしていたとか。
「あいつは、ダンジョンパワーが溜まると魔物は特殊な力を身につけるとか言ってたニャ。しかも、無理矢理ダンジョンパワーを注入すれば人為的に特殊個体を発生させられるとかも言ってたニャ! 間違いなくマッドなのニャ」
ダンジョンパワー……?
もしかして、邪気のことかな。邪気はもともとダンジョンの魔物の素だし、それを過剰に注ぎ込めば特殊な成長をする可能性も否定はできない気がする。
それに、邪気を纏うことで特殊な個体になった例にも心当たりがあるんだよね。ガロンドの地下水路で戦った邪竜。あれ、青竜の特殊個体だったんじゃないかな。氷属性の攻撃は青竜の特徴だし、何よりドロップアイテムが青竜関連だった。ここまで条件が揃っていると、偶然とは思えない。
それにしても、その特殊個体を人為的に発生させることができるのか。ラーチェさんはあの金ぴかスライムが、ゴドフィーさんによって生み出されたと見ているのかな? そう思ったんだけど、バッフィさんからフォローが入った。
「勘違いしないでくださいね。前ギルドマスターは特殊個体が発生する仕組みを探っていただけです。そのための実験はしていたみたいですけど、おかしな目的でやっていたわけではないですよ。ラーチェさんは難癖をつけて、自分が調査に出る口実を作りたいだけですから」
「な、何を言ってるのニャ! そんなことこれっぽっちも思ってないニャ!」
ラーチェさんの目は明らかに泳いでいる。びっくりするほどわかりやすい。
「ともかく、街の危機なのニャ! 急いで対策とらないと駄目ニャ!」
「だからといって、ラーチェさんが出る必要はないですよ」
「そうかニャ? すぐに連絡のつく高ランク冒険者はいるのかニャ? Cランクのこいつらでも、ちょっと手に余りそうなのニャ」
「それはそうですが……」
早期解決を目指すならば、ラーチェさんの主張は間違ってない。そのせいで、バッフィさんも強くは反論できないみたいだ。結局、バッフィさんはラーチェさんの主張を渋々ながら認めることになった。
「ニャは~! 久しぶりの冒険活動ニャ! さあ、お前ら、行くニャ!」
ラーチェさんはいい笑顔でそう宣言した。
あ、やっぱり僕たちも行く必要があるんだね。まあ、この件に関しては気になることもあるので僕としても異論はない。幸い、バッフィさんが指名依頼として処理してくれたので、ちゃんと依頼として扱われるからね。
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