47. 出発前の食べ納め?

『むぐむぐむぐ……!』

『お主、さすがに食べ過ぎではないか?』


 がつがつとカレーを食べているシロルを、ガルナが呆れた目で見ている。無理もないよね。食べ過ぎでシロルのお腹はぷっくり膨らんでる。明らかにキャパオーバーだ。


『だけど、そろそろ出発するって聞いたぞ! しばらく食べられないかもしれないから、しっかり食べとかないと!』


 お皿から顔を上げたシロルは、真剣な表情でそんなことを言った。これで食べ納めだって思ってるのかな。変な心配するなぁ。


「大丈夫だよ。カレーの材料はちゃんと確保してあるから」

『おお、そうだったのか! それなら安心だな! じゃあ、ほどほどのところでやめておくぞ!』


 シロルはニッコリ笑顔で頷くと、またカレーを食べ始めた。さっきよりは落ち着いたような気もするけど、やっぱり凄い勢いだ。というか、そのお腹で、まだ“ほどほどのところ”にも至ってないの?


 まあいいか。幸いなことに、カレーの材料には事欠かない。神様たちの合作ダンジョンからいくらでも採れるからね。


 さて、シロルも言っていたけど、僕らもそろそろアルビローダを発つことにした。モルブデン組とバンデルト組の争いは完全に沈静化したとはいえないけど、その原因を作ったエルド・カルディア教団はほぼ無力化した。あとはモヒカンさんたちに任せてもいいかなって思ってる。


 巨大埴輪で石鎧たちを倒したことによって、教団は大いに混乱した。石鎧たちを操ってたあの二人――ドムダンとダムロスは教団の大幹部とも言える存在だったみたい。ユーダスを筆頭に一大派閥を結成し、教団を実質的に牛耳っていたんだって。


 その大幹部が討たれたんだ。混乱するのも当然なんだけど、実は理由は別にもあったりする。最大派閥の長ユーダスが主立った者を連れて行方をくらましたんだ。教団が急成長した要因である銀の力も彼の失踪とともに失われた。そこに巨大埴輪を引き連れた僕らが訪れたので、教団はあっさりと降伏を申し出たんだ。


 そのあとのことは、モルブデン組の優秀なモヒカン秘書ファルコさんに任せたから詳しくは知らないんだけど、噂に聞いたところによると、教団は解散を命じられたみたいだね。


 まあ、銀の力を得る前から危険思想を持った集団だ。存続させても良いことはなさそうだし、妥当な判断だと思う。


 教団と一緒にアルビローダを牛耳っていたバンデルト組も大きく力を失った。大勢いた部下も旗色が悪くなると多くは離反。主要メンバーは山奥に逃げて山賊紛いな生活をしながら抵抗しているらしい。まあ、今までと変わらないといえば変わらないかな。


 とはいえ、以後、彼らに付き従う人は減ると思う。彼らの力の源泉となったダンジョンはモルブデン組で接収したから。


「ダンジョンの浄化は順調なんでしょ?」

『浄化というか支配権の上書きじゃがの。まあ、遠からず成るじゃろ』


 教団によって作られたダンジョンは銀の力の影響を受けている。一見すると普通のダンジョンと変わらないけれど、放置するわけにもいかなかった。というのも、これらのダンジョンを起点に銀の異形たちがこの世界へと侵蝕しているみたいなんだ。放置していると、じわじわと銀の神がこの世界への支配権を強めていくそうだ。それは困るから、いくつかの神様たちがダンジョンの支配権を塗り替えようと奮闘している。


 本来なら、それはガルナの役割なんだけど、彼女は世界を混乱させた罰として神の力を制限されているからね。代理の神がダンジョンの支配権を塗り替えてるってわけ。


 まあ、他にも理由があるんだけど。どうも、僕らが最初に乗っ取ったダンジョン――今じゃ、ゴッドトルトとかいう困った名前の街になってるけど――の話を聞いた神様が面白がって、自分もダンジョンを作りたいと思ったみたいなんだ。ダンジョンから支配権を取り戻せば、そのダンジョンに強く影響を及ぼすことになる。だから、色んな神様が立候補したみたい。


 そのせいで、アルビローダは他に例がないほど特殊なダンジョンが乱立する地域になっている。冒険者の目には魅力的な地域に映るんじゃないかな。今はまだ知られていないけど、いずれたくさんの冒険者が訪れることになるだろう。それにともなって、周辺地域も賑わって豊かになるはずだ。住人たちも山賊みたいなことをする必要はなくなるんじゃないかな。


「それなら心配はいらないかな」

『うむ。ユーダスらの手がかりが掴めなかったのは残念じゃが。まあ、なんにせよ、長々と寄り道させてすまんかったの』

「いいんだよ。僕らだって気になったんだし」


 ガルナがぺこりと頭を下げる。アルビローダに立ち寄るきっかけは、彼女の管理していないダンジョンがあるって話を聞いたからだものね。彼女からすると少し心苦しく思っていたのかもしれない。全然気にしなくてもいいんだけど。


「ま、予定通り、近いうちに出発しようか。じゃないとシロルのお腹が大変そうだし」

『……そうじゃな』


 僕とガルナのすぐそばでは、カレーを食べ終えたシロルが満足げに寝転んでいる。そのお腹は、すでにぷっくりとは形容できない。でっぷりだ。このままじゃ、いつか本当に破裂しそうだよ。


 そうなる前に街を出よう。僕とガルナは無言で頷き合った。


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このお話でアルビローダ編?は終わりです!

長い寄り道でした。

次は、中立国ラフレス(ギルド本部がある場所)へと

到着する予定です。たぶん。

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