ブンブン音はしない……はず

「だが、トルト。武器にするには量が多いぞ。お前の武器も作ったらどうだ?」


 ザルダン親方から思わぬ提案があった。ローウェルが同意するように何度も頷いている。いや、材料が足りるなら僕の武器を作るっていうのはいいんだけど……。


「えっと、足りますか……?」

「おお、足りる足りる。十分なほどあるぞ!」


 親方がそう保証した。これにはローウェルも怪訝な表情を浮かべる。ミスリルコインはそれなりにあるけど、剣と短剣を作っても十分に足りるというほどの量はない……と思うんだけど。


 たぶん、僕の顔に困惑が現れてたんだろうね。親方はぐははと笑うと、説明してくれた。


「どんな誤解をしているか大体想像はつく。お前らはこのミスリルをそのまま武器にすると思っているのだろうが、純ミスリルで武器を作ることなどほぼないぞ」


 親方が言うには『ミスリル製』と銘打たれている武器はたいていミスリル合金の武器みたいだ。というのも、純ミスリルは武器とするには硬度が足りないらしい。だから、普通は他の金属との合金にして使うんだって。そうすることによって、武器としての強度とマナ伝導性を両立できるんだ。


 ちなみにミスリルには不思議な特性があって魔力を流すと硬度が上がるみたい。その場合、純ミスリルとミスリル合金の硬度は逆転する。だから純ミスリルの武器が全くないというわけでもないんだって。でも、基本的には戦闘中に魔力を流しっぱなしにする必要があるので非常に効率が悪い。冒険者向けの武器としては使いづらいんだ。なので、貴族が護身用に使う程度みたいだね。


 まあ、結局どういうことかというと、合金にすれば同体積あたりのミスリルの使用量は減るから、僕の武器を作るにも十分な量があるってことだね。


「それじゃあ、お願いします」

「おう、まかせておけ!」


 そのあとは武器の性能に関して打ち合わせをした。ザルダン親方は一流の鍛冶職人だけあって、単に武器を鍛造するだけじゃなくて、術式を付与したり道具の機能を組み込んだいわゆる『魔剣』みたいなものを作ったりもできるそうだ。鉱人は手先が器用なだけじゃなくて、魔法関連の技能も得意な人が多いんだって。ただ、術式付与とか魔道具生産とかに特化しているから、あんまり魔法が得意なイメージはないね。


 ローウェルの剣は、特殊な機能は持たせず切れ味を強化する術式を組み込む。余計な機能を省いた分、構造がシンプルになるので、マナの伝達が阻害されることもないってことだ。魔法を剣に宿すローウェルとしては、その方が都合がいい。


 さて、問題は僕の武器なんだけど、そもそも新調するつもりがなかったので、何のアイディアもないだよね。できれば、使える武器にしたいところなんだけど――


「そういえば、短剣はリーチが短いことを気にしてなかったか?」


 悩む僕に、ローウェルがヒントをくれた。

 そうなんだよね。最近は大型の魔物と戦う機会が多くなってきた。そうなると短剣だとどうしても火力不足なんだ。リーチが短いから相手が大型だと深手を与えることはまず無理だ。戦うとしたら出血を強いてじわじわ削るって戦術を取るしかない。とても効率が良いとは言えないし、再生力が高い魔物だったらどうにもならない。


 そういうわけで、短剣のリーチの短さは気になっている点ではある。ただ、短剣という武器種を保ったままでは、リーチを伸ばすにしても限界はあるんじゃないかな? そもそも短剣スキルが適用される範囲がよくわからないんだよね。そういう分類は誰がしてるの? 神様?


 まあ、世界の仕組みについてはともかく、リーチが少しでも長くなるなら助かるのは事実だ。実現可能性については親方が判断するだろうし、要望するだけしてみればいいかな。


「そうだね。短剣スキルで扱えることが前提ではあるけど、リーチが長い方が戦いやすいかな」

「なるほど。トルトは魔法も使うんだったな? 短剣を主武器にしているからには器用さは高そうだが……筋力はないな!」


 親方は僕の全身をじっくりと観察して、そう結論を下した。

 いや、さすがにないってことはないよ、筋力! まあ、体はほっそりしてるし、同じレベル帯の冒険者と比べると並以下だとは思うけど。薄々気がついていたけど、僕ってハルファよりも筋力が低いんだよね。さすがにちょっとショックだった。うん、やっぱりステータス向上薬を飲まないと! できれば筋力が強そうな魔物の魔石を集めたいよね!


「今使っている武器を見せてくれ」

「あ、わかりました」


 貫きの短剣を手渡すと、親方はそれを手慣れた様子で調べ始めた。主に見ているのは重さやバランスみたいだけど、付与している術式もわかるようで「貫通力強化か」と呟いている。その様子は真剣そのもの。いつもの食いしん坊な姿とは大違いだ。


「もう少し大型でも扱えるか? それなりに重くなるが」

「大丈夫ですよ」


 僕だってCランク冒険者だ。さすがに短剣が多少重くなった程度で扱えなくなったりはしない。筋力が低めとはいえ、それでも一般人に比べると十分に力は強い……はずだ。


「よし、それなら魔力刃を生成できるようにするか。少し消費は重たいかもしれんが、常時発動するような使い方をしなければ問題にはならんだろう」


 魔力刃……?

 なにそれ、かっこいい!


 詳細を聞いてみると、短剣の刃を延長するように光の刃を生成できるみたい。もちろん、生成と維持にはマナが必要なので長時間は使えないんだけどね。それでも必要なときにはリーチを伸ばせるのも非常に助かる。魔力刃を出した状態だと短剣スキルで扱えるかどうかはわからないけど、差し込んでから魔力刃を出せばあまり関係ないだろうし。


 なにより、ロボットアニメやSF作品みたいな感じでかっこいいのがいいよね!

 楽しみになってきた!

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