伸びます
武器の製作を依頼してから一週間後。ザルダン工房から完成の連絡が届いた。他にも多数の依頼を抱えているはずなのに、思ったよりもずっと早い。どうやら、
次の日、ローウェルと一緒に工房に向かう。受付にいたのはマーク君で、僕たちを見るなり、すぐに親方を呼んでくれた。
「おう、来たな。新作バーガーのおかげでいい出来に仕上がったぞ」
親方がニヤリと笑みを浮かべる。ハンバーガーのおかげかどうかはともかく、武器の出来には自信がありそうだ。ちなみに、親方の言う新作バーガーとは邪竜討伐のときにレッセルたちに振る舞ったものと同じもの。さすがにコンテスト用に開発している本当の新作は秘密にしておきたいからね。
「ここでは手狭だな。裏に回るか」
親方の案内で工房の裏手に回る。そこはちょっと広めの庭になっていた。まあ、何が植わっているわけでもないので、武器を軽く振るうために確保しているスペースかもしれない。
「まずはローウェルの武器だ」
親方がぐるぐると巻かれた布きれから取り出したのは細身の長剣。手渡されたローウェルがそっと鞘から抜き放つと、剣身が光を反射してキラリと輝いた。
「おお……!」
ローウェルの口から感嘆の声が漏れた。目を細めて剣を見つめているところを見ると、相当に気に入ったんだと思う。儀礼用かと思えるくらいに、シルエットが美しい。こういうのを見ると、武器コレクターが存在するのも納得だよね。
「そいつは『導魔の剣』と名付けた。注文通りにマナの伝導性を優先した性能だな。軽くマナを流してみるといい」
親方に促されて、ローウェルが剣身にマナを流す。マナの通りを確認するのなら、それで十分だ。
「これは凄い……! だが……これは?」
結果は満足できるものだったみたいだけど……その直後にローウェルは戸惑ったような声をあげた。親方がニヤニヤ笑っているところをみると想定通りみたいだけど。
「気付いたか? その導魔の剣は一般的なミスリルソードに比べて、ミスリルの比重を高めてある。だから、魔力を流すと硬度と切れ味が増すのだ」
「そうなのか。だが、そうなると、通常時の硬度が不足するんじゃなかったか?」
「無論、その対策もしてある」
親方が言うには、この導魔の剣にはとある仕掛けがあるんだって。その仕掛けとは、マナの蓄積。鞘に仕舞っているときに、使用者の余剰マナを吸い取って溜めておくみたい。一方、鞘から取り出したときには、溜めておいたマナを少しずつ消費するようだ。この仕掛けによって、使用者が魔力を流さない状態でも、通常のミスリルソードと同程度の硬度を維持することができるらしい。
凄い技術だ!
マナの蓄積ができるなんて聞いたことがないけど……?
ローウェルの様子を窺うと、僕と同じように驚いているように見える。やっぱり一般的な技術ではないみたい。
「マナの蓄積か。そんな技術があれば、多くの魔道具で使われてもおかしくはないと思うが、聞いたことがないぞ?」
「それはそうだろう。儂らの工房の新技術だ。詳細を話すとルランナがうるさいから話せんがな!」
親方が、がははと笑う。どうやら最新技術まで使って性能を高めてくれたみたいだ。ありがたいことだね!
マナ蓄積技術は、ちょっと気になるけど、ルランナさんによって口止めされてるみたいだ。たぶん、僕みたいに契約前にペラペラと喋って怒られたんだろうなぁ。ちょっと親近感を覚える。
「次はトルトの武器――『光刃の短剣』だな」
次はいよいよ僕の武器!
親方が手渡してくれた短剣を受け取る。打ち合わせした通り、貫きの短剣よりは少し大振りだ。柄を握ると驚くほどに手に馴染む。ちょっと重たくはなったけど、取り回しに不安はなさそう。
鞘を外すと剣身が露わになる。ミスリルのせいなのか、それとも親方の腕のおかげか。装飾もないシンプルな剣身なのに、ため息が出るほど美しい。
「トルトの方は一般的な比率のミスリル合金だな。貫通力強化の術式は付与してあるから、そのままでも貫きの短剣に攻撃力で劣ることはないだろう」
親方の解説を聞きながら、軽く短剣を振ってみる。少し重たくなっているから、ちょっとだけ振ったときの手応えが違うけど、感覚が狂うと言うほどではないね。この程度の違いならすぐに慣れると思う。
「さて、肝心の魔法刃だな。まあ、特に難しいこともない。ただ、マナを流しながら剣身を伸ばそうと念じればそれでいい。流したマナの量でリーチが変わるから、最初は慎重にな」
そうだった!
この短剣の最大の特徴は、魔法刃でリーチを変えられること!
さっそく試してみないと!
親方の言うとおりに、マナを流して……そして念じる!
ちょっとやる気が空回りしちゃって、思った以上にマナを流してしまった。その結果、短剣から勢いよく光の刃が飛び出す。かなりの長さだ。たぶん、ローウェルの長剣よりも長い。
「あ、危ない奴だな! 慎重にやれと言っただろう!」
あはは……、怒られちゃった。
たしかに、覗き込んでいるような状態で剣身が伸びたら危なかった。気をつけよう。
「ごめんなさい。でも、思ったよりもマナ消費が少ないんですね。消費が重くなるって聞いてたから、こんなに伸びるとは思ってなくて……」
「……うむ、たしかに。どうやら、トルトはかなり魔力もマナも大きいようだな。探索職とは思えんほどだ。それなら、さほど負担なく使えるかもしれんな」
なるほど。たしかに、僕は結構魔力が高い方だと思う。前にサリィと話したことがあるんだけど、平均的な魔術師と比べても遜色はないと言われたからね。親方からすれば、そこまでとは思ってなかったのか。
試しに、長剣サイズの光刃を出したまま短剣を振ってみる。重さはそのままだから非常に軽い。その上、光刃を出した状態でも短剣というカテゴリからは逸脱していないのか、短剣スキルで扱えている感じがする。マナの消費を気にしなければ、光刃モードでも十分に戦えそうだ。
「リーチの上限は使用者の魔力に依存するぞ。とはいえ、長くなるほどマナの消耗が激しくなるから限度はあるがな。遠くを狙うなら、光刃を投射した方がよかろう」
なんと、この短剣、光刃を撃ち出すこともできるらしい!
さすがに投射系の魔法と比較すると威力は劣るみたいだけどね。代わりに詠唱を必要とせずに意思だけで射出できるから、メリットも大きい。
どうやら凄い武器を作って貰ったみたいだね!
使ってみるのが楽しみだよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます